私はいじめられ体質らしく、よくいびられる。それは誰にでもつけ入れられる隙を与える女だからだと思う。控えめなつもりが、相手に格下と思わせるらしい。だからよくバカにされる。
悔しくて眠れないときだってある。思い出して涙が出るときだってある。でも私はぐっとこらえて、普通の顔でいる。人前で泣くのは負けだと思うのだ。


 以前40歳になろうとする日本人女性とのトラブルについて書いたことがある。
彼女は服装や振る舞いが、いわゆる『かわいこぶりっこ』な女性だ。
 彼女は、日本にいたとき毎月違った男性から結婚を申し込まれていたとうっとりとしながら自慢したり、30年以上前に姉妹からからおやつを盗まれたことに目を吊り上げ怒ってみせ、かと思うと日本にいたときにはベルギー人の恋人に合おうため幽体離脱して合いに行っては彼を驚かせたと真顔で言う、正直私には理解不能な女性だったが、いろいろな人がいるものだと感心して、あえて普通に接していたつもりだった。

 仕事が無くて大変だというので、例えば私は結婚して大学の付属のオランダ語学校に通って、美大で勉強した話をしても、『何もそんな昔の留学の話しても意味がないのよねえー』と一笑に付された。
何か言うたびに否定されたり、バカにされたりして、なんだか私の話をきちんと聞いてくれないなと思っていたが、自分のことにしか興味のない人のように思えて、いちいち取り合ってもしかたがないと思っていた。

 ちょうどその頃、私は資格取得のため夜間の学校通いで毎週2、3日深夜に帰宅するようになってきて、オランダ語学校を朝から午後のクラスに変更したのだった。
そして全く合ったことの無い日本人女性から、私のよくない噂がたっていることを知らされた。
ある人からは写真の仕事を依頼されていたのに、あなたは相当問題があるらしいから頼まないと断れたことすらあった。


そんなこんなで、すっかり忘れたころ、今日オランダ語学校で見知らぬ移民の女性から話しかけられた。『ああ、あなたね、あの日本人女性ををいじめていた人!!』
彼女の説明に私は心底驚いた。
 いかに私が性悪で彼女に対して憎悪むき出しで何度も彼女を傷つけたのだとあり得ない様々な話を、涙ながらにオランダ語の授業の時間に、私のフルネームをだしてスピーチしたそうだ。私はあり得ない話だと言ったけど、私を知らない彼女が私の言葉を信じるとは思えない。

 しかし日本人社会だけでなく、オランダ語学校でも宣伝しているとは‥。しかも、涙ぐんでまで発表するんだ‥すごい女優だな‥。
あまりの嫌らしさに、私は正直彼女の顔を見たら吐きそうになると思う。


 女の涙ほど怖いものはないと改めて思う。

 会社員時代、何もビジネスマナーを知らない派遣社員に注意しただけで号泣された苦い思い出がある。
 一番の得意先で大企業宛の請求書に修正液を使って訂正がされているだけでなく、封筒の表書きにまでべったりと修正液が何度も使われていたことを、非常識と呼んで注意した。かなり怒りを抑えて静かに注意したつもりだった。ところが注意された若い女性は、いきなり声を上げて泣き出したかと思うと、トイレに走り去り、そのまま帰宅されてしまったのだ。翌朝ご両親から怒りの電話がかかってきたのはいうまでもない。
 正直泣きたいのは私のほうであった。自分の仕事を終えてから、修正だらけの放り出された請求書をシュレッダーにかけ、新たに請求書を印刷し、一つ一つチェックして、封書にいれるのに、深夜までかかった。しかし私は周りから、怖いおばさんと言われ、上司からも厳しく注意された。
 ああ、女の涙は汚いと、そのとき私は心底思ったのだった。これほど簡単に同情が集まる武器はない。しかも罪が無くても泣かせた方は悪人となり、周りから冷たい視線を浴び、罰せられるのだ。
ただビジネスマナーをしらなかったあの女性は、あちこち私の悪口を宣伝してまわることはなかった分、良かったのかもしれない。

 
 とりあえずこれからは、どんな人種でもつきあう人は厳選しようと思う。
いじめられるのには慣れてるんだから、こんなことくらい我慢するさ‥。