今日はちょっとだけ元気になる、そんなひと時がありました。

で、なんとなく君にメールを送りたくなった理由でありまして。。。

人間は孤独で誰かと繋がっていたい、愛し合いたいだけなんだな、と。

 

あ、今度、君に見せたい映画があるんだ。

チャップリンの「ライムライト」ていう、とっても素敵な映画だよ。また貸すね。

じゃ、風邪が流行ってるからくれ。ぐれも体を冷やさないで。

君はよく風邪をひくから、体を温めてあげてください。またね


 

P.S

君と近々、美味しいコーヒーが飲みたいです。





国会中継が流れていたTVの画面はいつの間にか相撲に変わっていた。

ところで、あの国会中継は誰の誰による誰の為に行われていたんだろう?
八百長相撲に目もくれず、遊び疲れた親子はそれぞれに好きな事をしている。

千夏ちゃんは足をブラつかせ、ファッション雑誌を読みながら、少女みたいに、

チョコレートを何度も口に含んでいる。

マスターはいつの間にかセーターを着ていた。

眉間にしわを寄せて、競馬新聞とにらめっこ。どっちが勝つのか負けるのか?

どこにでもありそうな親子の風景みたいで、なんか微笑ましい。

僕は何度目かの禁煙に向け、小さな覚悟と共に

最後のタバコにそっと火を点けた。

「ふ~~」

 

ふと天井を見上げると、そこには夕焼けがありました。

夕焼け色の川を一匹の金魚がフラリフラリと泳いでいます。

やがて、壊れた橋の下を金魚が通りすぎると、゛キラキラ゛と゛キラキラ゛と

音をたてて、ファンタジーのように橋が結ばれ繋がりました。

それでも、何食わぬ顔の金魚は心地良さげにフラリフラリと遠く暖かい方へと

泳いでいくのでした。



 

(お母さん、あなたの元気な声がまた聴きたいです)

 



「マスター、もし今日死ぬなら何て言葉を言い残しますか?」

 

「言う者は知らず、知る者は言わず。てな?ガハハハハー!」


 

「・・・(笑)・・・」


店内には誰かが歌う、ひと足早いクリスマスソング゛蛍の光゛が流れてる。

 

「ういぇ~あぁ~ほう~はぁ~えぃ~」。

どうやら、からっ風が窓を叩き始めたみたいだ。

僕はイテツイテ離れない、タバコの火を消した。


 

「帰ろかな」。

 

「なんか悪い気さしてしもたみたいやな」

「ええのええの、気にせんといてママ」

「いや、アタシそろそろ店に行かなアカンで行くわ。マスター、お勘定」

「サンキュー、750万円ー!」

「はい、ちょうどあるわ。750億円」

「悪かったねーママ。またね」

「軍国男の分の飲み代の千円も置いてくわ」

「アカンアカン、そんなんアカンー!」

「ええのええの、お釣りは義援金に入れといて。じゃあサイナラ」

「ありがとねー。ママ、また来てね」

「毎度ありー!良いお年をーメリー栗きんとーん」

 

トイレの流す音をクレッシェンド&デクレッシェンドさせながら、

秀和さんが席に戻った。

少しの沈黙を置いて彼は話しだした。


「千夏さぁ、オレ謝らなアカン事があるんやわぁ」

「何?」

「実はお前と付き合ってた頃にな、何回も浮気してたんや。。。

オレな寂しかったんよ。お前と付き合いを続ける為に、て言ったら

言い訳になるんやけど・・・。なんか不安でしょうがなかったんや。」

「なんで今頃になって言うのー?胸に締まっておきな、そうゆことは。

ちゅうか知ってたよ。でも、それが別れる理由じゃなかったん。

あたし、幸せな女よりイイ女になりたかったんやと思う」

「・・・・・。とにかくゴメン」

「謝らんといて。あたしも小さな嘘をついた事あるし。
自分を守るんじゃなくて、人を幸せにする嘘もあるんじゃないの?」

「わかんない・・・」

「あたしもワカンナイけど・・・」

 

誰かのクラクション、TVの虚ろな答弁、忘れられない過去。

ココにいることが気まずく、できる限り存在感を薄めて、僕は途方に暮れる。

いや、暮れるフリをする。きっと二人は軽い後悔の荷物を降ろしたいんだろう。

 

「千夏は前の旦那さんとなんで別れたん?」

「なんかな理解してもらえやんかもしれんけど、不幸になりたかったん。

それは時が過ぎてから気づいたんやけど。あと・・・実はあたしの息子が

後天性の身体障害者なん、言語障害もあってな。それも別れの原因かな。

その現実を知ってから凄い自分を責めてさぁ。きっと、これからもずっと自分

を責め続けるような気がするわ。。。あとは理由がない、なんとなくやね」

「そうやったんやぁ・・・。きっついな・・・。でも聞けてよかった」

「気の毒やと思わんといてなぁー、そう思われるのが一番イヤやで。

こうゆう環境でしか味わえん幸せもあるんやで。本当に」

「うん、あると思うよ。想像を絶するけど、あんまり自分を責めやんといて」

「うん、ありがとう」

 

気づいたら、マスターは眠りに落ちていた。

それに気づいた僕は急に焦りだし、さして吸いたくもないタバコに火を点けた。

 

「一彦は最近どう?好きな娘はどうなったん?」

「いやーようわからんすわ。女のココロは秋の空でしょ。どうして欲しいのか、

自分がどうしたいのか考え過ぎてワケがわからんくなってきましたわ」

「あんな一彦、女は゛ときめき゛が大好物なん。それだけチャンとしとけば後は

なんとかなるよ。男にとっては何やろ?゛嗜み(たしなみ)゛とか?」

「秀和さん、どう思います?」

「・・・・・、男の大好物、・・・オレは゛未練゛なような気がする」

「・・・未練かぁ、、、なるほど」

「それだけで酒が飲める。なんか暗いなぁ、男は・・・・・。」

「゛憂い゛は女の方が深いと思うケドね」

「・・・憂いかぁ、、、なるほど」

「男と女、国家と民衆、宇宙と人類。なんか関係性が似てるな」

 

会話が終わるのを待っていたかのように、秀和さんの携帯が鳴る。

受話器片手に小走りと店の外へと出ていった。

マスターが目を覚ます。

 

「あれ、秀和は帰った?」

「いや、電話です」

 

千夏ちゃんは枯れかけのキンモクセイの花瓶の水を入れ替えている。

彼女の横顔はどことなく切なく、誰かを想い、今にも消えそうな灯りのよう

        ゛あの人、今頃どこでなにをしてるんやろ゛

 

秀和さんが店に戻ってきた。

 

「マスター、そろそろ晩ご飯の準備せなアカンで帰りますわ」

「ほーい。あ!そういやさっきママが秀和のお勘定してったわ」

「マジでー!なんやあのオバハン」

「秀和、ありがたく受け止めなアカンよ!あのママ、口は悪いけどエエ人やで」

「うん、そうするわ。マスター、オバハンに宜しく伝えといて。ほな、お兄ちゃん

またね。なんか楽しかったわ」

「こちらこそ楽しかったです」

「じゃ皆さん、ご機嫌よー」

「ありがとう」

「ありがとう」

「お気をつけて!」

 

「ふ~」

「大丈夫か?千夏」

「うん、ありがと」

 

どことなく親子のような二人の姿に少しほっこりした。

 

秀和さんと千夏ちゃんは、二人だけでは決して話せなかったんだろう。

二人の間にはよくある男と女の微妙な川が横たわっていた。

季節が移り変わっても、その川はずっとどこまでも流れ続ける。

二人が渡る橋は壊れたまま。。。

きっと、橋を作り直すことがもうできない事を二人は知っている。

時に立ち止まり、川の向こうを眺める。

追い越したり、追い抜かれたり、立ち止まったりを繰り返して。

そして二人はまた歩いていく。

決して交わらないレールの上を電車は走る。

゛ケセラセラ゛

 

床に目をやると、トカゲが戸惑いながらこっちでもないあっちでもないと、

体をくねらせながら、ぶらつき回ってる。

「マスター、トカゲがいますよ」

「マジで」

マスターはホウキ片手に「エイッ!エイ!」と2発でトカゲを殺した。

「ごめんなぁ、トカゲさん」

マスターはティッシュでトカゲを優しく取り上げてゴミ箱に捨てた。
スッカリ忘れていましたが、マスターは生粋の明るい同性愛者。

美空ひばりが大好きで「でこ~ぼこ~みちや~♪まがり~くね~たみち~♪」

と、ひばりさんの代表曲゛川の流れのように゛を堪らなく下手によく歌っている。

 

そんなマスターと千夏ちゃんがナンチャッテ親子バカ話に花を咲かす中、

僕は発情期のように、あの娘に送るための長いメールを作り始めた。

 


 

『この間はごめんね。

君のお陰でなんとか崩れ落ちなくて済みました。

オカンは今、病院で薬を飲んで少し落ち着いています。

まだ油断は禁物ですが・・・。

いつ、また自傷行為を起こすかと、トラウマがまだ消えません。

きっと、この世に同じ痛みを抱えてる人達がたくさんいることでしょう。

少しでも希望ある社会であって欲しいもんです。

 

仕事はお陰さまでうまくいってます。

売上げも上昇していてスタッフも過去最高のメンバー。

これなら他の美容室には負ける気がしませんわ。

ただ、労働とアルコールで僕の体はボロボロ。

睡眠薬の量も右肩上がり。

まぁ、ボチボチとやれるとこまでやっていきますわ。

生きとりゃ少しはイイ事あるでしょ。

 

あ、そういや借りてた「モモ」読んだよ。

面白かった。

大人になる、てことはどうゆうことなんやろ?

成熟する童心てあるんやろか?

心の欠片は見つかるんやろか?

なんか唐突ですが、

君にはできる事なら子供を産んで欲しいです。

この世に深い絶望を持っている君にこそ、産んで欲しいな。

ところで、この間ワケワカラン夢を見てね。


 

こんな話。。。

 


 

アホ犬の゛凡夫゛が宇宙船に載って、ワケも分からず長〜い暗闇の中を

何処でもない何処かへと向かっている。

やっとこさ辿りついたのは、どうやら月のようだ。

月に降りた「凡夫」が散策していたら、宙を泳ぐ一匹の金魚を見つけた。

最初は一匹だったのが二匹、三匹、四匹、五匹・・・・・。

気づいたら数えきれない程の金魚の群れが月の周りを泳ぎ、ひとつの

円を描き、廻り続けている。まるでメリーゴーランドのように。

゛凡夫゛は地震で目が覚めたかの如く、酷く驚き、あまりの光景に何故か

大量の失禁をした。

そこに突然、誰かが飛ばした聞き取りにくい擬音の石が一匹の金魚に

当たった。擬音はシャボン玉みたいに繁殖する。そしてスピードを上げ、

数億のピンボールの如く、瞬く間に連鎖し、交差し、活発に弾けていく。

やがて、その音達は聴いたことのない見事に壮大なハーモニーとなる。

それはそれは神々しいシンフォニー。

畏怖と快楽を激しく掻き立てる奇跡の祝祭、絵空事。

゛凡夫゛は恍惚な快楽で頭がだんだんと狂ってくる、瞬きもせず。

瞼(まぶた)の裏は焼けただれ、果ては終わらない永遠の欠伸をする。

「ういぇ~あぁ~ほう~はぁ~えぃ~」

そこへ死んだはずのガールフレンド、メス猫゛ラルゴ゛が突如、現れた。

 

「あたしが見える?凡夫」

゛凡夫゛は金魚達の魔法で目も見れなくなり、耳も聞こえなくなっっていた。

「あなたは間違っていないわ。でも、もうこれ以上、泣かないで。どうか

投げ出さないで。あなたはひとりじゃない、あなたの物語はあたしの物語。

あたしのことは忘れて欲しくないけど、忘れて欲しい。前に進まなきゃ。あたし

はこっちで腰を振ってるから、あなたも迷わず振り切って生きて欲しいの」

金魚達の群れは相変わらず、機械のように残酷に美しい調べを奏でている。

「凡夫、もう行くね。あなたと離れたくないけれど、一緒にいることだけが

愛することじゃないわ。尊い裏切りもあるものよ。あなたは本当に優しい人。

ごめんね、さよなら。」

 

゛ラルゴ゛はそう言い残して、月の中へと消えてった。

 

金魚の群れは舵を地球に向けて、微かな心残りも残さず泳いでいった。

゛凡夫゛への魔法もようやく解け、目も耳も正常に戻ったが、フラフラの

゛凡夫゛のペニスから何故か少量の精子が垂れ流れていた。。。

゛凡夫゛はゆっくりと宇宙船に戻り、腐りかけのカジキ鮪をたいらげた。

「ういぇ~あぁ~ほう~はぁ~えぃ~」。腹いっぱいの゛凡夫゛を眠気が誘う。

少し空想に浸り、いつのまにか眠りに落ちていた。月には゛凡夫゛の精子と

゛ラルゴ゛の影,だけが残り、宇宙船は誰かの思惑どうりに帰路を辿り始めた。

゛凡夫゛はまるで誰かに伝えるかのように寝言を呟いた。

『また明日』、とさ。。



 

こんな物語。

 

 

 

 

『金魚物語』


 

なんでもない日の午後のこと。

この世はまるで木枯らしみたいだ。
いつからか寒い方へと向かっているもよう。。。

憂鬱な季節は今に始まった事でもないし、まして嫌いな訳でもないが、
病み具合は複雑に深刻化、そして虚無感漂う電磁波情報過多世界。

「狂っているのは俺なのか奴らなのか、それともどっちもなのか??

 

いつもは開店休業中の喫茶店「ハートビート」。
珍しく、今日は少しだけ賑わっている。

薄汚い店内を舞う埃たちとタバコの煙をかすかな陽射しが照らしてる。

「ゴッホ、ゴッホ」、
マスターは風邪気味なのか埃や煙で咳き込んでいるのかわからないが、
年々咳き込むようになってきたのが少し気掛かりだ。。

 

雑に畳んである新聞、
不味〜いコーヒー、
壁に貼ってあるキング牧師のポスターは今日も変わらぬまま。

中途半端な居心地と気だゆるい時間はカタコト・タカコトと刻んでいく。

流れるアル・グリーンのBGMだけが唯一の救いだ。。

 

「あー、つまんねぇ。マスター、なんかおもしろいことねぇかなぁ。」

隣の管理職風の中年客が嘆く。

 

(大体、こんな事を言う奴に限って、大抵おもしろくない奴ばかりだ)

 

「昨日、宝石屋の息子が人妻を連れて店に来とったで。えらい口説いとった。」

「またあいつか。ワシ、あいつ嫌いやわ。ボンボンはのん気でええのうー。」

「コラコラ、金持ちにも貧乏にもエエ奴がおりゃワルい奴もおるで、

 あんまり偏見もったらアカンで!」

「あー、つまんねぇ。マスター、お勘定して。仕事がタ〜ンマリあるで帰るわ。」

「なんや、まだ続きがあったのに・・・。」

「ええわ、その話、興味ないっ。」

「はいよー、毎度あり!」

「はぁ~」

 

中年の背中には長年の社会や家族のしがらみで徒労感が覆っていた。

少し乱れた地位という名の背広を整え、中年男は店を出て行った。
カウンターには飲み残しのコーヒーと消し損ねたタバコの吸い殻。

イスにはまるで残尿感が残っているかのようだ。
「もうちょっとだけ、ここにいたいよ」。。。

 

中年男と入れ変わる様に、ある男が紅葉色のリュックを背負って、

バタン!と店に入ってきた。

彼は一息ついて、ちょっと丁寧な言葉で乱暴な思想を語り始めた、


 

「いっそのこと戦争が起これば、少しはまともになるような気がしませんか?

この国も市民も。なにか傷つけたい症候群が世界を覆っている。ネットに

氾濫してる匿名や弱い者への虐め、貧富の差。とにかく滑稽で卑劣ですわ」


真っ赤なトマトジュースを一気に流し込む。
男は今にもはち切れんばかりの憤りを持ちながら、イライラとコーヒーを注文した。

 

「あなた仕事は何してるの?」

紫ヘアーのスナックママ風、熟女が唐突に聞く。

 

「無職兼家事ですわ」

「ははは、やっぱり。こういう人に限って、無職なのよねぇ。

アンタ、どうせ本やインターネットばっかり見てるんでしょう?」

「それの何が悪い?オレはTVも新聞も観てるし、映画も観てるっ」

「あとエロビデね。アンタはねぇ、ちゃんと人間を見てないんだよ。

生活費はどうしてんだい?」

「生活費は嫁がなんとか稼いでるよ」

「そうゆうのをヒモて言うんだよ。嫁じゃなくてパトロンやな。

パトロンのためにアンタは何か創造しとるんかね?」

「何かを創ることだけがクリエイティブと違う。何もしない事も

立派なクリエイティブや」

「クリトリス?はいはい。アンタはうんちくばっかりやなぁ。こんな時代の危機

と言うわりには頭でっかちやわっ。大事な時に理屈を言うなぁー!」

 

(よくぞ言ってくれた!なんかおもしろくなってきたぞ・・・)

 

僕はカウンターの隅で笑いを堪えるのに必死。

男は完全にスナック熟女に対して、心を閉ざしたもようだ。

マスターの顔は機嫌良さげに余裕の微笑みを浮かべている。

重い沈黙に悪戯するかのように、マスターは陽気に歌い踊りだした。

 

「♪ケンカはよしましょ腹が減るから結んで開いてドドンパパン♪ハッハッハー」

 

「ちょっとマスター、オレは真剣なんすよ。マジメに話しましょうよ」

「マジメも休み休み言えよー。こう見えてもワシは忙しいんやで。ハッハッハー」

 

「ただいまー!あらママ、こんにちは。おおー、久しぶりやん!一彦」

居候の看板娘・千夏ちゃんがマスターに頼まれた買出しから帰ってきた。

「久しぶり」

「久しぶり」

紅葉男と千夏は軽く目を合わして挨拶を交わす。

「千夏、香典袋あった?」

「あったよ、500円もしたわ」

「なにぃマスター、誰か亡くなったん?」

「あんな、友達の息子さんが交通事故でな・・・」

「ええー、おいくつで?」

「19歳。調理の専門学校行っててな、学校帰りに事故にあったんやわ。

ほんま理不尽な事が人生にはよう起こるなぁ」

 

スナック熟女は拝みながら、小さな声で「南無阿弥陀仏」と3回、唱えた。

僕もココロの中で「安らかにお眠りください」と囁いた。

きっと、今も昔もこれからも、
こういう不条理な事は世界では日常的なんだろう。

皆、何かしらの喪失感や痛みを背負って生きている。

そう想うと、みんな、ホンマよう耐えてるよなぁ。。

誰もが誰かと生き別れか死に別れであって、
そのいつかの別れの準備をするかのように人は生きているのかな?

あーなんか、たまらなくオカンとあの娘に会いたくなってきたぞ。

 

゛ヒューひゅヒュー゛お湯が沸いてきたようだ。

 

「秀和、元気にしてんの?」

「ん~、元気て何かようわからんけど、まぁなんとか生きてるよ」

「子供は幾つになったん?」

「10歳。千夏とこは?」

「3歳。やんちゃ坊主で大変やわ」

「うちはもうプチ思春期に入って一緒にお風呂に入ってくれやんわ」

「女の子やでなぁ」

「今日は子供、どうしてんの?」

「オカンに見てもらってる。たまには一人の女としての時間も欲しいわ」

「千夏はその後、どうなん?ええ人おんの?」

「なんかシングルマザーに近寄ってくる男はおっても大概が所帯持ち。

ほんまシングルマザーをなんやと思ってるんやろ?失礼しちゃうわ」

「・・・・・。」

「秀和は奥さんと仲良くしてんの?」

「んあぁ、まぁボチボチやね」

「ふーん、ええなぁ」

 

「ほーい、コーヒーお待たせー」

 

アル・グリーンのレコードが終わり、TVを点けるマスター。

いつもの国会中継が流れ始める。堪らなく退屈そう。

どうやら消費税について議論してるみたいだ。

 

「茶番や!デタラメや!胸クソ悪い。マスター、オレは革命を起こしたいよ」

「イエーイ!革命起こせ!団結しよう!平和を掴め!WAOー!WAOー!」

「政治に真実はないと思うけど、あまりの嫌悪感で無関心でおれやんわ。

できることなら政治のことを考えたくないけど。
しゃあないな、国境線がある世界で生きとる限りわ」

 

僕はこの秀和という男に急激に魅かれ始め、話しをしたくなってきた。
少し勇気を出して、

 

「あのー、ひとつ質問していいですか?
 一番腹が立つ事ってナンですか?」

 

「・・・ん~腹が立つことかぁ?・・・。
右にしても左にしてもリベラリストにしても、
諸々思考停止になっとる奴らかな?
色んなヤツがおるのもエエし、
多様性は大事なんやけど、、、
独りよがりの言動や行動やな。
自分が正しいとか、絶対の真実を知っているとかの自惚れと愚かさかな」

「じゃぁ、あなたにとっての宗教は?」

「中日ドラゴンズやな」

「はぁぁ・・・、じゃあ天皇制についてどうお考えですか?」

「ははは、それは話が長くなるでやめておきますわ。ただ、あらゆる差別の

象徴やと思う。長い差別の歴史の側から、天皇の人権の側から、その

両方の意味で」

「なるほど。でわ、国家は必要ですか?」

「一番、大事」

 

「アホッ!命が一番大事じゃ」

スナック熟女が我慢してたかのように喋りだした。

 

「んー違うと思うで。命や生活を守ってくれている国家が一番。」

 

「でも、国家は時に国民を殺すやん・・・」

自信なさげに静かに千夏ちゃんが入ってきた。

 

「違う、身を捧げたんや。国家を守るために戦い、命を犠牲にしたん。

その人達のお陰で今のオレ達は今、こうやってノホホーンと生きておれる。

オレはその人達の繋げてきた橋を繋げたいんや!」

 

「なんか思考停止の軍国主義みたいな男やなぁ」

「うっるさいオバハンやなぁー。あんたの香水臭さのがよっぽど酷いぞ!」

「じゃあ、秀和は戦争が起きたら戦地に行くの?」

「当ったり前やん」

「嘘つけー。こうゆう男に限って、いざ戦争が始まったら逃げるか、

後ろの方で『やれー!』て言うてるだけやわ」

「絶対に行くわー!」

 

「私は自分の子供を戦地には行って欲しくないわ。
じゃあ、国家と家族とどっちが大事なん?」

「国家のが大事やな」

 

「狂ってるわ、この男」

スナック熟女は呆れた表情で手鏡を覗いている。

 

(僕は少しの勇気を出して)

「じゃあ、自分と国家とどっちが大切ですか?」

 

「一緒」

 

風通しの悪い空気が店内いっぱいに充満した。

遠くではサイレンの音が鳴っている。

マスターは香ばしい匂いを漂わせて、焼いたトーストの耳をかじってる。

 

(僕は秀和さんの恋愛感を聴きたくなった)

「奥さんはどんな人なんですか?」

 

「えらい唐突やなっ」

「あたし知ってるよ、ちゅうか友達なん」

「言うなよっー」

「めっちゃええ娘やで。明るくてな、尽くしてくれるタイプ」

「言うなって」

「あたしと秀和は昔、付き合っててな。別れてから二人は付き合ったんな」

「・・・・・」

 

一瞬だけ、店内の空気が張り詰めた。

 

「ええー!千夏、この男と付き合ってたん?ホエー。あ、そう。

なんで別れたん?」

「それはデリケートやで内緒!」

「どうせ、この男に千夏が愛想尽かしたんやろ?」

「そんなん一言では言い表せへん。男と女はどこまでいっても

フィフティーフィフティーや。ママはなんで別れたん?」

「浮気や。養育費も払わんと。あんな奴、死んだらええのに」

 

秀和さんはさっきまでの元気がどこへいったか、黙ってトイレに入っていった。