スナック・ランクワームタイの夜は、少しだけ真面目だった。

 

みやちんがテーブルに契約書のサンプルを並べながら、
静かにこう言った。

 

「……というわけで、
“死後事務委任契約”は、公正証書で作るのが基本です」

 

桃太郎が、そっとストローの氷を奥歯で噛む。

 

「……公正証書……なんか急に“ちゃんとしたやつ”っぽい響きっすね」

 

緑子がぼそり。

「“ちゃんとしたこと”って、たいていお金かかるのよね」

 

北島がうなずく。

「俺、いま店のオーブン壊れてて、修理代に20万かかってるからな……
これ以上“焼かれる”のは財布が無理だわ」

 

桃太郎「いやもう、“人生最後の出費が契約書って”なんかジワジワ来ますよね……

 

Peeがグラスを磨きながら笑う。

「人生の締めくくりにしちゃ、地味な買い物ヨね。
でもアンタたち、“最後にお金かけたくない”って言う割に、
“トッティー・フルッティー”の中身はハードディスク1TBでしょ?」

 

北島が小声で「1.5TBです」と訂正。

 

桃太郎が机を軽く叩く。

「でも結局、いくらかかるんすか?それ。
安心の代償ってやつ……やっぱお高いんでしょ?」

 

そこで、みやちんがニッコリ笑って、スッと本題に入った。

 

✍️まず大前提!

💡死後事務委任契約は、公正証書で作るのがマストです。

なぜなら、公正証書でなければ──

  • 契約の存在を他人(役所や業者)が信用してくれない

  • 偽造・改ざんのリスクがある

  • トラブルになったときに“法的証拠力”が弱い

つまり、「死んだあとにちゃんと実行してもらう」ためには、
公証役場で公証人の確認を受けた契約=公正証書での作成が最も安全・確実というわけです。


🧾 死後事務委任契約を公正証書で作るメリット

  • 第三者(公証人)が内容をチェックしてくれるので安心

  • 法的証拠力が強く、万一のトラブルでも対応しやすい

  • 受任者(頼まれた人)も手続きをスムーズに進められる

  • 契約の正当性が高いため、各所で受け入れられやすい

  • 任意後見契約など他の公正証書とも連携しやすい


 

🎯まとめると……

「安心して死後を任せる」=「ちゃんとした契約」が必要

そのために必要なのが、公正証書による死後事務委任契約というわけです。

 

🗣️桃太郎の“なんとなく分かった風”→費用への流れ

 

みやちんの説明をひととおり聞いたあと、
桃太郎がグラスを置いて、両手をパタパタさせた。

 

「ま〜まぁまぁまぁ……なんか、よく分かんないとこもあるけどさ、
要するにあれでしょ?
“ちゃんとした公的な文書で残さないと、銀行とか役所が信用してくれない”ってことっすよね?」

 

みやちんが、ゆっくりうなずく。

 

「そのとおり。口約束や私文書だと、“誰がその人の死後を任されてるのか”を、
役所やサービス業者が確認できないんです」

 

緑子がストローをくるくる回しながらぽつり。

「そのへん、役所って“疑り深い元カレ”みたいよね。
“ほんとにアンタなの?”って絶対確認してくる」

 

北島「あと銀行は“愛想悪い姑”な。“ハンコがないなら帰りなさい”って目してくるからな」

 

Pee「死んでから“手続きできません”って言われても困るでしょ?
だから“生きてるうちに公式で書いとく”ってのが、公正証書なのよ〜」

 

桃太郎がうなだれるように頷いたあと、
グラスを見つめながら、静かに聞いた。

 

「……で。その“公式な安心”って、ぶっちゃけ、おいくらなんすか?

 

みやちんがニヤッと笑い、カバンから1枚の紙を出した。

 

💰 死後事務委任契約にかかる費用まとめ


✅ 1.公正証書作成手数料

  • 公証役場に支払う費用です

  • 金額は内容やページ数によって異なりますが……

📌 目安:1〜2万円前後


✅ 2.専門家への報酬(行政書士など)

  • 契約書案の作成、公証役場との調整、内容設計などを行います

  • 費用は事務所によって異なりますが……

📌 目安:3〜5万円程度


✅ 3.その他の実費(郵送代・謄本など)

  • 公証役場で発行される謄本(控え)や、
    書類の郵送費、印紙代などがかかる場合があります

📌 目安:数千円程度


🧾 合計費用の目安

費用項目 金額(おおよそ)
公正証書作成手数料 約1〜2万円
専門家報酬 約3〜5万円
実費・雑費 数千円
合計 5〜7万円前後

🗨️ みやちんのひとこと

「“死んだあと迷惑かけたくない”って本気で思うなら、
その気持ちを5〜7万円でカタチにするのがこの契約です」

 

🎬「でもでもでも!」――おかもも、真の庶民代表になる

 

みやちんが淡々と費用の説明を終えたあと、場が一瞬静かになった。

 

そのタイミングで、桃太郎がグラスを持ったまま前のめりに。

「いや、でも……」

 

全員、なんとなく“来るぞ”という顔になる。

 

「でもでもでも!!」

 

きた。

 

「仮に契約で“トッティー・フルッティー削除”お願いできたとしてもですよ?
遺品整理とか、借りてた部屋のクリーニング代とか
そのへんの金って……どうなるんですか?ていうかそれ、俺の死後に誰が払うの?

 

北島がすかさず乗っかる。

 

「確かに。“死んだらリセット”じゃないのかよ、ってね。
俺も冷蔵庫片づけずに死んだら、業者が“凍ったモンブラン”発掘することになる」

 

緑子が、珍しく真顔で言う。

「たしかに。
契約書は書けても、お金が残ってなきゃ回せないわよね」

 

Peeがストローを噛みながら、手を挙げる。

 

「そのへんはみやちんが、ちゃんと説明してくれるネ。
“ケジメ代”の次は、“処理費用の確保”よ」

 

みやちん、うなずきながら再び口を開いた。

 

「いい質問です。
実際、“契約をしておくだけ”ではダメで、
死後の事務処理に必要なお金を準備しておくことも、重要なポイントなんです」

 

桃太郎「……また別でお金っすか……」

 

🧾 死後の処理費用って、どう準備するの?


死後事務委任契約を結んだだけでは、
火葬・遺品整理・住居の片付け・データ削除などに必要な費用の原資がなければ、
受任者(頼まれた人)も動けません。

そこで重要なのが👇

 


✅ 1.現金で準備しておく

  • 自宅に現金を置いておく/金庫に預けておく

  • 死後に必要な分(20〜30万円程度)を封筒などで残す人も

📌 注意:盗難や発見されないリスクあり/明確な使途がないと争いになる可能性も


✅ 2.金融機関口座に残す+受任者に伝えておく

  • 通帳+印鑑の場所を受任者に共有

  • ただし、本人死亡後は基本的に預金の引き出しは凍結される

📌 注意:正式な相続手続きが必要/“勝手に引き出す”と法律上グレー


✅ 3.死後事務費用としての預託金を渡しておく(生前)

  • 契約の段階で、受任者に「必要経費分」を預ける形

  • 契約書に「○○円を死後費用として使ってよい」と明記

📌 安全性は高いが、信頼できる相手に限る


✅ 4.信託(家族信託・死後事務信託など)を利用する

  • 専門家にお金の管理を委ねておく制度

  • 自分の死後、事務処理に必要な範囲だけを使ってもらえる仕組み

📌 複雑な制度だが、公的・法的に非常に安全


✅ 5.遺言書で“費用負担”の意思表示をする

  • 「火葬・片づけなどに○○円を充ててほしい」と記載

  • 遺言執行者がいれば対応できるケースも

📌 実行までに時間がかかる/事務委任とは別枠になる点に注意


💡 ざっくり言うと…

🔐 「誰に頼むか」+「どこから費用を出すか」をセットで決めておくことが大事!

 

🧾 死後の費用対策として「死亡保険」を活用する方法

 

✅ 死後事務費用に備える1つの選択肢

生命保険(死亡保険)に加入しておくこと

 

📌 ポイント①:あえて受取人を指定せずに相続財産の一部にする

  • 受取人を指定しなかった場合は、保険金が相続財産扱いとなり、相続人間で分配の対象に


📌 ポイント②:➀を踏まえて死後事務受任者を「遺言執行者」に指定するのが効果的

  • 死後事務の受任者が、同時に遺言執行者として指定されていれば、相続財産(=保険金を含む)から必要な費用を優先して控除することも可能

  • これにより、「死後にお金を払う人」と「実際に処理する人」が一致するため、非常にスムーズ

  • この場合、遺言書には遺言執行に関する報酬規程をくわえておく

  • その他に死亡保険を解約した場合は、死後事務委任を解除するという条項も加えておく


🔐 保険活用のメリット

  • ✅ 死後すぐに費用を確保しやすい

  • ✅ 手元に現金を置かなくて済む(盗難リスクが減る)

  • ✅ 受任者の負担軽減・支払いの実行性が高まる


⚠️ 注意点

  • 保険契約とあわせて、遺言書や死後事務委任契約を整えておくことが必須。

  • 保険金の契約で受取人をしてした場合、受取人と保険会社の契約となるので、相続財産にはならず、死後事務委任の事務処理費用に充てられない。

  • せめて掛捨てでいいので、受取人未指定の死亡保険に入っておく。


🗨️ まとめ

死亡保険は「もしもの備え」だけじゃなく、
“自分の死後を誰かにきちんと任せるための資金源”として活用することができます。


 

みやちんの保険活用アドバイスを聞いたあと、
桃太郎が急に前のめりになって言った。

 

「なるほどね〜〜!
掛け捨ての死亡保険に入っとけば、費用に充てられると。なるほど、なるほど……」

 

(皆、ふむふむ)

 

「……でもさ!」

 

全員また“来たな”の顔。

 

「もっかい聞くけどさ、受取人指定しないで死んだら
その保険金ってホントに相続財産になるの?どうなんの?
“死んだあと誰も金もらえません”とかヤバないっすか!?」

 

北島「それ、俺の人生で一番リアルなホラーだな……」

 

緑子「“保険金は相続財産です”って遺影の横に貼ってあったら泣くわね……」

 

Peeがククッと笑いながら、

 

「“宙に浮いた保険金”って、ホラー映画のタイトルっぽイヨネ!」

 

そこでみやちん、スッと契約書の一部を指さす。

 

「それも、ちゃんと使える方法があります」

 

桃太郎「え、マジで?」

 

みやちんが静かに続ける。

 

受取人をあえて指定せず、保険金を“相続財産”として扱うんです。
そのうえで、遺言書に“この保険金から死後事務の費用を差し引くこと”を書いておく
さらに、死後事務受任者を遺言執行者にもしておけば、
費用として使ってもらうことが可能
になります」

 

桃太郎「えっ、じゃあ“受取人なし”ってのがアリなんすね?」

 

みやちん「はい。ちょっと手続きには時間がかかりますが、
ちゃんとした遺言と執行者がいれば、“相続財産からきちんと使う”というルートもあるんです」

 

北島「なるほどなー、“ラベル貼っときゃ混乱しない”方式か……」

 

Peeがにやっと笑って、

 

「“誰が使うお金か”って、死後でもハッキリしといたほうがいいネ。
人生の“お金の行き先”は、生きてるうちに書いときなさいヨ〜」


 

🏮「誰にも迷惑かけないって、けっこうカッコいいじゃん」

 

Peeが、最後のひとふきでグラスを仕上げながらつぶやいた。

「……まぁさ。
誰にも迷惑かけないで逝くって、
ちょっと寂しいかもしんないけど──
でも、“あんたらしくて、よかったね”って言われたら、うれしいじゃない?

 

緑子がうなずいた。

「“何も残さなかった人”じゃなくて、
“自分でちゃんと締めた人”……っていうのも、それはそれでかっこいいかもね」

 

北島が口の端で笑う。

「俺なんか、最期の片づけまで“甘さ控えめ”で行くからな。
モンブランの栗も自分で剥くわ」

 

みんなが笑った。

桃太郎は、テーブルの上の契約書をそっと見つめたまま言った。

 

「……うん。
俺、たぶん誰にも看取られないと思うけど……でも“残される誰かが困らないように”って、それって、ちょっといいっすね」

 

みやちんが静かにペンを差し出す。

 

「書きましょう。“終わりの準備”じゃなくて、“想いのバトンタッチ”って考えてください

 

桃太郎が、深く息を吸ってからペンを取る。

 

「──OK。
俺の人生、“トッティー・フルッティー”まで含めて、
ぜんぶ引き受けてもらいます…ってぇ!ちょっと早くない??ねぇ早くないかな??

よく考えたいよねぇ!?」

 

Peeがカウンターの奥で小さくチリンと鈴を鳴らした。

 

ここは、スナック・ランクワームタイ。今夜も場末に笑いがおきた

 


📺エンディング

「死後の段取り」って、ぜんぶ自分のためじゃない。
残された誰かが、困らずに、笑って終われるように。

誰かを愛した人も、誰にも愛されなかったと思ってる人も──
最後の“ケジメ”くらいは、じぶんで書いていこう。

 

……いかがでしたでしょうか?

まぁね、“死後の手続き”とか“片づけ”とかって、聞くだけでちょっと身構えちゃうと思うんですよ。

でもね、今日みたいにスナックでお酒飲みながら、笑いながら、“で、俺が死んだあとどーすんの?”って話せるなら、それってもう一歩、ちゃんと生きてるってことなんじゃないかなぁと思います。

……というわけで、死ぬ前に一杯、契約と、トッティー・フルッティーの整理だけはお忘れなく!

 

おしまい