コイバナ
恋花


「私の憧れ」




私の薬指には
白い水中花のような
とても美しい
他の誰にも見えない指輪が
優しく輝いていると
心からそう思えて
とても幸せでした




やがて夏休みに入り
私は友だちのM美ちゃんが
家に帰省する時に
一緒に泊まりがけで
遊びに行くことになりました



美しい田園風景の中を
列車が走ります


作って来たサンドイッチを
二人で食べながら
たくさんおしゃべりをする
楽しい小さな旅みたい


M美ちゃんが
「京子の薬指の指輪
どんな輝きなんだろうね」
缶コーヒーを飲みながら
私の左の薬指を見ています


私は
「世界にたった一つしかない
とってもステキな輝きよ」
と列車の窓に左手を
かざして言いました


M美ちゃんは
「うん、本当に
そうなんだろうね。
Mくんの気持ちを受け取って
京子が輝かせた指輪だもん
世界に一つだけのね」

そしてM美ちゃんは
少し間を置いて

「京子、本当は自分の為に
Mくんに大事なお金を
使わせたくなかったんでしょ」
と言いました…


私は「…Mくんのお父さん、
また大きな手術を
なさるそうなの。
サークルのリーダーがご親戚で
お見舞いに行った時に
お話しなさっていたそうで

Mくんからは何も聞いて
いないけれど
私に心配させたくないと
思っているのだと思う

M美ちゃん、私の薬指には
世界でただ一つの指輪が
本当に輝いているの。
私、とっても幸せよ」と
私は言いました


M美ちゃんは優しい笑顔で
黙って頷いていました。


**


降り立った駅から
随分と歩いて
M美ちゃんの家に着くと
大きな玄関から
坊主頭の目がクリクリとした
男の子が飛び出して
来ました。


「ねえちゃん!
おかえりなさーい!」と
元気に言いました


M美ちゃんは
「R、ただいま!」
と言いながら
可愛い坊主頭を撫でると

「お土産入ってるから
先に、ばあちゃんに渡して!」
と紙袋を渡しました

そして私に
「弟のRだよ、
ねえちゃんの友だちの
京子ちゃんだよ。
ちゃんと挨拶して!」

そう言うと弟のRくんは
「こんにちわー」と
ニコッと笑って紙袋を持って
走って家の中へと
入って行きました


**


八十歳になられる
M美ちゃんのおばあちゃんが
「こんな田舎によう来て
くれましたね、
M美と仲良くしてもらって
本当にありがとう。
何にもないけれど
ゆっくりしてね」と
たくさんの手料理を次々に
出して下さいました

お父様もお母様も
そして妹のAちゃんも私を
とても歓迎してくださり
明るく楽しい時間を
過ごさせて頂きました

夜になると庭で妹と弟が
線香花火をしています

お父さんは縁側で
ビールを飲みながら
お母さんは茹でたての枝豆を
ざるで持って来て
「この枝豆、お隣から
もらったんですよ。
粒が大きくて立派ですね」と
話していらっしゃる

おばあちゃんは「何にもない」と仰ったけれど

私には温かい家族という
豊かな宝がとても眩しくて


「M美ちゃんは
こんなに素晴らしいご家族の
もとに生まれ育って幸せね」
言いました

するとM美ちゃんは
「いっつも喧嘩ばっかりよ。
小さい時は特にお菓子の
取り合いでね、今もか」と
言って笑いました



でもそれこそが
私の最高の憧れでした




つづく




**・*・*・*・*・**


家の中がね明るいと

心の中がね

とってもあったかいの





女は花であれ
賢く優しい花となれ

**+.° ♡ °.+**










一瞬


一生