コイバナ
恋花

「祖母の愛の言葉」



こうして
私たちの遠距離恋愛は
友だちも呆れるほど
紙と電波を通して
続くのでした



彼からの手紙には
時々写真も添えられていて

訓練の様子や
新しく出来た友だちとの
写真や
そして正式な正装の姿の
写真もありました


正装で敬礼をしている姿
とても凛々しくて
なんて
ご立派なのでしょうと
心から思いました




ふと、父方の祖母を
思い出しました



祖母は17歳の時に
お見合いで祖父の元に嫁ぎ
五人の子を産みました


祖母の時代はお見合いと
言っても
嫁ぐことは既に親によって
決められていることが
殆どだったと言います


祖母の気持ちというのは
無いに等しく
そしてまたそれが当然だと
思っていたとも
祖母は言いました


現代ではとても考えられない
ことですけれど。


祖母は祖父に
敬語を使っていました


例えば

「ご飯、
おかわりいかがでしょうか
お味噌汁を温め直して
まいりましょうか」

また
「雨が降りそうですから
傘を用意しておりますので
お持ちください」など。


幼い私の耳にも
祖母の言葉は
いつも柔らかく優しく
とても丁寧に聞こえて
いました


祖父は無口でしたが
威張った感じでなく
祖母にはよく
「ありがとう」と
言っていました


大きくなって
祖母が祖父に話していた
その言葉は敬語だと
知りました


私にとって
敬語は堅苦しいものとして
ではなく


「祖母の愛の言葉」であり
大切な人への言葉だったと
心から感じることが
出来たように思います


私もいつか彼に
愛の言葉を家庭で使う日
が来るのかな
…と思うように
なっていました



それから
数ヶ月後のこと

毎日の夜8時05分の
電話のベルがいつものように
鳴りました

電話を取ったらすぐに
「外出許可が出たから
会いに行くから!」と
大きな声でした


いきなりだったので
何と言ったのか思い出せ
ませんけれど
とにかくとても嬉しかった
ことだけはよく覚えて
います



そして
あっという間に3分が経ち
ました



電話は夜8時になると
公衆電話に走って行くのだと
手紙に書いてありました


公衆電話には
すぐに人が並ぶので
急がないと遅くなって
しまうからと。


私が
「お電話、毎日でなくても
いいのに…」と言うと


彼は
「京子ちゃんの声を聞くと
また明日も頑張れるから
だから毎日かけたい」と
そう言ってくれました






あの人に会える


大切な
あの人に会える



まだ先なのに
嬉しくて
とてもとても心待ちにする
私でした




つづく




・**・*・*・*・**・


あの人を

思い浮かべるだけで

頬が染まるね…♡°





女はであれ
賢く優しいとなれ

**+.° ♡ °.+**










一瞬


一生