コイバナ
恋花

「母の恋」




女の子に人気でありながら
少しも気取ることなく
自分の考えをしっかりと
持っているMくんに


まだ恋という感情では
ないけれど
臆病な私の心の扉は
静かに
開き始めたようでした…





ある日、母が
「いつかコスモスの花を
持って来た人、
ボーイフレンドなの?」
と私に聞きました。


私は
「サークルで
一緒に活動している人よ」
そう答えました。


それが本当の答えだと
思ったから。


少し間があって
母は
「そう。それなら
良かったわ」と
言いました。


私は、その言葉が
何を意味しているのか
うっすらと分かりましたが
「何が良かったの?」と
聞きました。


母は
「私なら
野に咲くコスモスを
くれる人よりも
赤い薔薇の花束を
くれる人を選ぶわ」
そう言いました。


私は…心の中で
「そうでしょうね…」と
思いました。


それが
両親の離婚の大きな理由
でしたから。


父はとても真面目で
勤めていた米軍基地が
日本に返還されると同時に
仕事で得られたもので
小さな会社を経営し
より良い製品の開発をしたり
ライセンスを取得する為に
渡米したり、と
とても忙しくしていました


そして
社員さん方とその家族を
守ることにも一生懸命な
人でした。



母に労いや感謝の言葉は
あっても、甘い言葉を
かけてあげることは
多分できない人でした


いつも仕事に情熱を傾け
思いやり深い父を
好きになったはずの母
父に恋をした母…


父に求めたものは
「永遠の恋心」
だったのかも知れない
大きくなってから
そう思いました。


けれども
父は母を愛していると
子ども心にも
私は感じていました


お酒に酔ってソファに
寝てしまった母に
そっと毛布を掛ける父の姿
何度も見ました…
今でも忘れられません。


しかし
堅実で誠実な愛は
とても地味で


いつもいつまでも
甘い恋をしていたい母には
通じなかった…


野に咲く
可憐なコスモスの花
よりも
情熱的な赤い薔薇の花束を
求める母


流暢な英語を話し
オリベッティーの
タイプライターを
ブラインドタッチで打ち
ピンヒールで颯爽と歩く
一人の女性としては
とても素敵で綺麗だった
と…思います


そんな母が求める
コトやモノ
それを叶えてくれる
恋人をつくり
父とは離婚をしました


私は幼い頃から
いつも母に
「あなたは薔薇の蕾よ」
そう言われていました。


私もそう思って
育ちましたが
途中で気付きました。
「なにか…ちがう」


でも母の中では
それが価値あるコト、モノ
だったので

愛する娘に教えたい
気持ちでも
あったのだと思います


でもなぜか
母はいつも
寂しそうでした…


多くの恋を楽しみながら
いつも確かな愛を
求めてしまう…


私の瞳には
そう映っていました




野山を駆けまわり
木の実や花をポケットに
服と靴には
花の花粉をいっぱい
着けていた私を
叱っていた母
それを庇ってくれる父


Mくんの白いスニーカーの
先に着いた黄色い花粉が

そんな私の心を
ゆるゆると
ほどける魔法をかけて
くれたかも知れない
のでした…





つづく





・**・*・*・*・**・


黄色い銀杏の実が
ひとつ、ふたつ、みっつ…

あそこにも
ほら
まだまだあるね
かわいいね

美味しそうだね〜笑




女はであれ
賢く優しいとなれ

**+.° ♡ °.+**












一瞬


一生