今回の記事は「涼宮ハルヒの憂鬱」という作品のネタバレを含みます。
これは本当にネタバレしたらもったいない部分なので、興味のある方でまだ作品を未見の方はこの先は読まない方がよいかと。

というわけで。
涼宮ハルヒの憂鬱をあらためて鑑賞し直してみた。
本当に、完成度の高い作品だ、と思う。
ストーリーが開始してしばらくは、読者(視聴者)は普通にストーリーを追っていく。
涼宮ハルヒという、ちょっと不思議で元気な女の子に振り回される主役キャラ。
周りには個性的な、でもある意味画一的な(かわいいおっとりキャラ、無口で奥手な眼鏡キャラ)女の子に囲まれて、楽しい学園ラブコメが展開されるんだろうな、と、誤解を恐れない言い方をすれば、受け手は完全に油断させられる。
ところがある日、その無口なメガネっ娘から主人公は自宅に呼び出される。
お、三角関係フラグ成立か?などとこっちがのんきに思っていると、そのメガネっ娘は「自分は宇宙人で、地球人でも特別な存在である涼宮ハルヒを観察すること、そのためにここにいる。」などと突然めちゃくちゃなことを主人公に語り出す。
「おいおい、この電波、いったい何なんだよ?」と読者が思ってしまえばもう演出側の勝ちである。
この時点で、完全に主人公と読者は同一の心情に立たされているからだ。
そう思っているハシから、今度は可愛いロリキャラの方まで「私は未来からやってきました。涼宮さんを観察するためです。」などと言い出す。
よくあるラブコメと思っていたら、登場人物はみんな電波。
おいおい、この作品どうなってるの?と、読み手はちょっと不安になってくる。
そして、キョンがどうやってこいつらとうまく付き合っていくんだろう?ラブコメとして成立できるのかな?などとまだのんきに考えている。
そういうふうに、「まったくこいつら電波でしょうがねーな」と思っているところで、急激にそれらが現実のことなのだと思い知らされる。
そう、朝倉涼子だ。
ちょっとこのとき受けた衝撃は私の文才ではうまく言語化できない。
情報の伝達に齟齬が発生する可能性があるが、聞いてほしい。
朝倉涼子が、主人公を襲ってきたときの受け手の驚き、これは主人公の驚きと同一である。
今まで電波や不思議ちゃんの妄想だと「やれやれ」と思っていたことが、現実として自分の身に降りかかってきたのである。
このシーンは、原作でも、アニメでも、本当に演出が秀逸だ。
美人で性格もいい委員長キャラが、主人公を放課後教室に呼びだして、「何もやらずに後悔するより、やって後悔する方がいいよね?」と突然同意を求めてくる。
多くの読者は、「勇気を出しての告白?」とわくわくするだろう。学園ラブコメものだと思っているのだから。
そして、読み進めながら「突然学園のヒロイン的キャラが参戦!どうする主人公?」などと思っていると、突然ナイフで襲ってくるのだ!
何のことかわからず、読み手もパニックに陥る。ここでもまた読者とキョンはシンクロしている。
そして、訳のわからない間に突然放課後の教室が閉鎖された超常的な空間へと変異している。
そこへ現れ、これまた超常的な力でキョンを救う長門。
二人の戦いが終わった後、ようやく主人公と読者は気がつくのだ。
「ああ、こいつらの言っていたことは、本当のことだったんだ・・・」と。
涼宮ハルヒの憂鬱、中盤の最大の山場、長門の告白から朝倉との戦闘へと続く場面は、上記のように主人公と受け手の心理の変動を完全にシンクロさせることに成功している。
ここは本当に凄い。
それは、特にアニメが秀逸なのだが、スピード感とシーンの切り替えがうまいことにも求められる。
・普通の速度で続く学園生活。
・長門の告白で時間が止まったようになる。
・みくるの告白で、状況は混乱する。
・古泉の告白で、「ハイハイ、あんたもね、わかったよ」とあえて中だるみさせる(のような感覚を与える)。
・朝倉の告白→襲撃→長門との戦闘で、急転直下のスピード感を与える。
それらが終わった後、もう同じように時間が流れていても、普通の学園生活ではないのだとの感覚に読者を持って行くことに成功している。
この中盤の演出のうまさは、小説でもアニメでも、本当に久しぶりに体験した衝撃だった。
すべてを見終わった後、作者に、演出家に翻弄された、とも思った。
心地よいショックだ。
こういっちゃアレだが、よもやスニーカーの作品なんぞにこの年でこうもいいように弄ばれるとは思わなかった。
いくら一人称視点の作品とはいえ、ここまで主人公に移入させられてしまうとは。
宇宙人だ未来人だと登場キャラが言っているのに、全然信用せずに学園ものだと思い続けているところに、ある1シーンだけで、「これは学園ものではなくSFファンタジーものだったのだ」と納得させられ、以後その視点で読み進めるようになる。
この視点の急激な変換を、ト書きの説明ではなく、ストーリーだけで行わせるその演出力。
小説ももちろんそうなのだが、これを余すことなく、いや、それ以上の出来でアニメ化に成功したスタッフの力量に感服する。
同じようなことを長々と書いてしまって申し訳ないが、それぐらい、自分にとってはこの作品の演出は衝撃的だった。
少なくとも、アニメは全話ダウンロードして持っているのに、改めてDVDを買い揃えてしまうぐらいには自分の心を動かした。
私はそれまで、アニメだラノベだというものからほぼ全くと言っていいほど遠ざかっていた。
幻滅していた、と言ってもいい。
特にアニメは、エヴァの影響をあからさまに受けているセカイ系か、媚び媚びの萌え系か、昔のアニメを懐古しただけのモノか。
そしてどれも、全くと言っていいほど動かない。
そのなかで、「どうやら凄いらしい」と言う噂を聞いてたまたま久しぶりにちゃんと(と言ってもニコニコ動画で、だが)見たアニメがハルヒだった。
───「アニメという物はまだこれだけ感動を与えてくれる可能性を秘めたものだったのだ」
と、この作品がこっちの世界へ私を引き戻した元凶となるわけである。
(だから私のアニメ歴にはエヴァ以降ハルヒまで約10年のブランクがある)
前々から誰かに言いたかったのだが誰も聞いてくれる人がいないので、ハルヒ再見を機にブログで記事に残しておく。