「小料理屋 桜」を最初から読まれる方はこちらから
高城教授を中心に雑談しているとギャラリーの扉が荒々しく開けられた。
入ってきたのは康之だった。
一斉に康之に皆の視線が注がれる。
「もう始まってるのかよ。急なんだよ。同窓会があるなんて聞いたの昨日だぞ。」
その声は酒の匂いがした。
「藤堂君、なんだ。その情けない姿は。久しぶりの皆の再会に水を差すぞ。」
高城教授はそう注意したが、康之の耳には入ってない様だった。
「お~。そこにいるのは俺の女を取った憎い奴。今はいい気分だろうよ。」
そこまで言うと皆がざわついた。
康之と桜子の結婚を知っているのはごく僅かだったし、今のいい様では
雄二が桜子を康之から略奪愛した様にも聞こえる。
だが康之が桜子にした女泣かせの事で悩ませていていた事を知ってる者もいたので、
控えめに、
「藤堂君。ここはお前の来る所じゃない。教授を囲んで昔を懐かしむ場なんだ。
帰ってくれ。だいぶん酒も入ってる様だしな。」
少し強めに肩を押した。
康之はその肩を押した男性の腕を掴むと逆に押し返し、声を荒げて、
「うるせ~んだよ。お前に何が分かるってんだ。」
怒鳴り返した。
康之の登場ですっかり場が白けてしまったので教授がゆっくりと立ち上がり康之の前に立つと、
「藤堂君と松嶋君の結婚生活の事は噂で聞いてるよ。ここは君が来る場所じゃない。
帰りなさい。いい大人ならね。」
静かな口調だったが、その言葉は康之を圧倒させた。