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結婚したとはいえ2人のすれ違いの生活に代わりはなかった。
昼間は雄二がギャラリーで個展を開く日も多かったし
夜は桜子が店にいる事は当たり前だった。
結婚して2ヶ月が経とうとした時桜子は迷いに迷って夫となった雄二に相談した。
「ねぇ、お店を少し休みを取ろうと思うんだけど、どう思う?」
「なんで?常連のお客さんもいるだろう。」
「結婚はしたけど私、雄二さんに奥さんらしい事出来てないもの。」
「いいのに、そんな事気にしなくて。
店の残りのつまみを持ってくれてるだけでも十分だよ。」
そう言って大学時代に癖だった桜子の長い髪を撫でた。
「雄二さん、その癖。治らないのね。」
「あぁ…。つい。懐かしいな。大学時代。」
「高城教授はお元気からしら。」
高城教授は二人の取っていたゼミの教授で二人が付き合っている事に最初に気づいた人物だった。
「会いにいってみるか。久しぶりに。」
雄二は桜子が持ち帰ってきたつまみを食べながらビールを一口飲んだ。
「でも引退されてるかもしれないわよ。」
「引退してたら准教授だった山森先生に聞けばわかるだろう。」
桜子は雄二の提案に少し考え込んだが、
「教授にも結婚の報告したいし、行ってみましょうか。」
「じゃぁいつだったら行ける?俺は今日個展が終わったから2~3日休みだけど。」
「私は明日は臨時休業にするわ。休日に行っても教授はいないから。」
翌日、二人は10年以上行ってなかった大学に行った。
大学構内は活気と若さがあふれていて、自分達もそうだったんだと思わせた。
まず事務所に行って教授がまだ講義をしているかを確認した。
「すみません、卒業生なんですが高城教授はまだ講義をされてますか?」
「されてますよ。相変わらず14号棟の23番室で資料に埋もれてますよ。」
高城教授は大学生から好意を持たれていたが、それは事務員にも変わらないらしい。
「ありがとうございます。」
「良かったわね、手土産持ってきて。」
桜子の手にはいつも通っている和菓子屋のお菓子の箱があった。
「教授の事だから酒が良かったっていうに決まってるよ。」
桜子からその箱を受け取り二人は高城教授のいる教授室に向かった。