小料理屋 桜 76話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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無事、あの一軒家との契約を済ませると、二人は運送会社を選ぶ為に雄二のうちに向かった。

桜子は初めて入る雄二の部屋を見ると、

「すごい部屋ね。雑然としてる。」

桜子の言う通り雄二の部屋には何枚かの絵と壁にはデザイナーや画家の住所が

ピンでとめてあった。

「桜子の部屋と逆だろ。これでも今日桜子が来るから片付けた方なんだけど。」

そう言いながら雑誌をまとめ部屋の隅に片づけていた。

「一緒に住む様になったら、こんな状態にしないでね。」

「わかってるって。絵はレンタルコンテナに預けるし、俺の荷物なんてほんのちょっとだけだから。」

雄二は桜子の為にアイスコーヒーを入れると、ノートパソコンを開いた。

「さて、引っ越し業者探しだろ?安すぎるとこは安心できないから適当には選べないぞ。」

そう言いながら慣れた手つきでパソコンを操作し、引っ越し業者を検索していた。

それを桜子は黙って見ていた。

何件かピックアップしてから、

「こことこことここ。どこにする?」

「そうねぇ…。お客さんが引っ越しをした時、ここは評判が良かったわよ。」

ノートパソコンに表示されている1件の引っ越し業者を指さすと桜子はアイスコーヒーを一口飲んだ。

桜子が指差した業者はCMもよくテレビで流れていて悪い評判は聞いた事はなかった。

「じゃ、ここにするか。今日、見積もりに来てくれるかなぁ。」

「来てくれるんじゃない?今はこういう業種はお客さんを獲得するのに必死だから。

とりあえず今日は雄二さんの部屋の見積もりを見てもらったら?

私のは私が時間を作って近いうちに見てもらうから。」

雄二は桜子も今日、見積もりを見てもらうと思っていたらしく、意外そうな顔をした。

「今日、見てもらわないのか?」

「いっぺんに2件は無理じゃない?」

「今日、時間を作ったんだ。2件とも見てもらおうよ。その方が引っ越しが早くなる。」

アイスコーヒーのストローに口を入れながら桜子は考えていた様だったが、

「じゃぁ、業者さんが出来る様だったら今日してもらう。」

雄二が電話をしてる間に桜子は雄二の部屋から外を見ていた。

雄二の部屋からはブランドショップが立ち並んでいるのが見え、

恐らく雄二のギャラリーにも近いのだろう。

雄二は電話を切ると、嬉し気に、

「2件とも今日、見積もりしてくれるってさ。俺のが先であと20分位で来てくれるって。」

「そう。」

「どうしたんだ?元気がないみたいだけど。」

確かに雄二の部屋に入ってから桜子の口数は減っていた。

「ん?そんな事ないけど、あの部屋から引っ越すんだなぁって思って。」

「だってさっき契約したうち気にいってたじゃないか。」

契約したうちは見ている時は確かにはしゃいでいた。

今になってあのうちじゃない方がいいと思いだしたのだろうか。

「そんな事ないわ。ただ長年住んでたから寂しくなっただけ。

あとは結婚報告会に招待する人を決めた方がいいわよね。」

それは雄二の頭になかった事だった。

まず住居を決める。

それしか考えてなかった。

もしかしたらこの結婚は桜子の方が優先権を持ってしまうかもしれない。