【フラート】
「婚外」「不倫」のキーワードで色々と検索していた頃、宗教人類学者 上島啓司氏のコラムに辿り着き、記事を読んで初めて知った言葉。
聞き慣れない言葉でピンとこなかったけれど。
異性と会話したり、アイコンタクトをしたり、軽くスキンシップをしたり、肉体関係を持つ恋愛前の段階のことで、日本語では「恋の戯れ」というそう。
付き合う 付き合わない
スル シナイ
一括りで決めてしまいがちな日本人だけど、海外ではフラートをマナーとして教えられることもあるのだとか。
不倫や浮気ほどハードルも高くない。
罪にならずに、トキメキや官能を感じることができる友達以上恋人未満な関係性。
自分の好きな人が誰かにフラートしていたら、それはそれで私、嫉妬しちゃいそうだけど・・・
そんなフラートな出来事があった夜の話。
私が住む街では、この時期、毎年恒例の秋祭り。
町会ごとに山車が出て、神輿を担ぐ人達で老若男女が賑わう。
その日、夫は不在だったので、暇を持て余した子供たちを連れて夜の祭りに参加した。
スタート地点から、参加者にはお酒が振舞われる。
暗くなった街に出たら、祭着を着た大人達が、すでに顔を赤くしていた。
いつもの静かな夜の街とは違い、街全体が熱気を帯びて、太鼓や笛の音、掛け声で盛り上がってる。
子供の友達も、家族連れで参加している人たちが何組も。
私も子供と一緒に、後ろから神輿についていく。
ビール片手に酔いながら。
途中途中の休憩地点でもまた、お酒や、子どもへの飲み物が出されるので、歩けば歩くほど、酔いもまわり、祭りも盛り上がる。
まとわりつくような視線を感じたので、顔を上げると、私のことをじっと見てる男の人がいた。
知らない人。
なかなか視線を外さない。
「どこの町会の方ですか?よかったら今度・・」
と声をかけられる。
近寄ってくるその男の人に。
酔いが手伝って。
私も濃いめに視線を絡ませた。
「あっちの方です」
それだけ言って、その場を去る。
どこかの町会の、誰かの父親なのかな。
いつもと違う華やかな夜の街とお酒は、昼間の仕事人や家庭人としてのスイッチを少しだけOFFにするみたい。
私だって、たぶん。
明るい太陽の下、お酒も入っていなければ、視線を絡ませ返したりはしないもの。
その後、町会ごとの飲み会で居酒屋に向かう途中。
子供同士が仲の良いお友達のパパ、イベント事や学校行事でよく会うYさんと話しながら歩いた。
Yさんの奥さんは、外に出るのが苦手ということで、こういう時にいない事が多く、その日も一緒にはいなかった。
私は片手で子供の手を引きつつ、荷物を持ち、もう一方の手で自分のお酒と子供の缶ジュースを持っていた。
Yさんが、「大変でしょ?ジュース持ってあげるよ」と言ってくれる。
私は、「ありがとうございます。大丈夫ですよ」と、一応遠慮してみる。
Yさんが「いいよいいよー」と言って手を近づけてきた。
そのまま、私の手に数秒触れてから・・・缶ジュースを持っていった。
夫とあんな事があったからか。
何気ない、優しさが心に沁みる。
ほんの数秒の思わせぶりな触れ方に、どきりとする。
そのままずっと触れていてほしいと思ってしまう私は、優しさに飢えているのかもしれない。
男の人(夫)にえぐられた心の傷は、男の人に癒してほしいと思ってしまう・・・
一度だけ謝ったきりの夫は、その後、私の心配なんて全くしてこない。
居酒屋でもYさんは、子供を挟んで私の側にいて、他愛もない会話をしながら、グラスが空くと、すぐにお酒を注いできた。
よく飲んで。いや、飲まされて?・・・お開きの頃にはすでに、ただの酔っ払いの私。
名前も知らない男性も、Yさんも。
同じ街や町内でまた会うかもしれない人。
絶対に一線なんて超えない間柄だからこそ。
妻や夫がいても。
罪にはならないフラート。
お互いの妻と夫がいない場で、お酒を片手に会話することも。
視線を絡ませ合うことも。
手が触れ合うことも。
思わせぶりな態度をとりあうだけの、ただの恋愛遊戯。
一夜明けて、陽の光に曝されれば、この出来事は昨日見た夢の一部みたいになって、再会した頃には忘れてしまうのでしょう。