「シアスター・ゲイツ展 アフロ民藝」には、図書コーナーもありました。
南北戦争から心理学まで、想定より幅広いジャンルの本が
何冊かパラパラと見て、次のコーナーに行こうとしたときに、ある本のタイトルが視界の端にひっかりました。写真では右下のほうに写っている白黒格子柄の表紙の一冊…。
IN PRAISE OF SHADOWS
これはもしかして…
やっぱり!
谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」です
中学生のときに、たしか推奨図書リストか何かに入っていて…。
初めて読んだ彼の作品がこちらです。
深い美意識と整った文章に感嘆したのを覚えています。
その頃は無知すぎて「知らない天才作家が現れた」と思いました。笑
作品があまりにも多くて、有名なものを中心にしか読みきれていないのですが、好きな作家です。
英語版は読んだことがなく、それほど長いものではないのでベンチで読んでいくことにしました。
たまに知らない単語もありましたが(これは私がたくさんの単語を知っているということでは当然なくて、単語自体は中学生が分かりそうなものがほとんどなのです)、日本語版を繰り返し読みすぎて内容を覚えているため意味が分かる状態
ただ、英語の文章を味わえるレベルに達していないため、原文のように文章表現に感動することはありませんでした。あえて平易な表現にしているのかなとも感じました。
英語の趣きって、どうしたら感じ取れるようになるのだろう…。
自分の英語力の問題が大いにあるので、たしかハーパーさんという、訳者の方には申し訳なく思います。
好きな本ではありますが、「すごく共感も理解もするけれど、現代人としてはここまで拘ることはできないな」と思うところや「この場面には遭遇したことがないから文章から想像するしかないな」と感じるところが私はあるのですが、英語版ではなぜかより顕著に感じました。
日本古来の美意識を西洋との対比で説明する文章だと私は捉えているので、英語で読むとある種の気まずさを感じてしまうのかもしれません。あとはやはり谷崎の文章の表現力、想像させる力が強いのでしょうか。(逆に言えば英語版の表現から私が想像する力が弱いのだと思いますが、本当に簡単な表現になっていて…。でも「そういうなら日本語の趣きを残したまま訳してみろ」と言われてもできません)
ハーパーさんの後書きは興味深く読ませていただきました。谷崎の話だけでなく、たとえば「日本の文学ではどのような文章の構造がよいとされてきたか」などの考察もされていました。自分とは意見が合わないと感じる点もあって面白く、持ったことのない視点もあり勉強になりました。
「アフロ民藝」でどのような意図でこの本が置かれていたかは分かりません。
もしかしたら、
西洋の文化にも陰影を尊ぶ要素はある、とか
「アフロ民藝」というコンセプトにおいては西洋と東洋の文化が融合している、とか
「民藝」と「陰翳礼讃」には共通する考えがある、とか
そういうことが伝えたかったのだろうか?と思いながら展示を眺めました。(それか南北戦争の時代には32分の1の混血までも迫害対象となったという話が書いてあるからか…?実際はただ置いてみただけの可能性もなくはないか)
西洋の文化にも陰影を尊ぶ要素があるのでは?とは初めて読んだときから思っていて、初めてヨーロッパに行ったときにも感じたのですが(作中ではアメリカとヨーロッパの違いにも少し言及されています)、
このあたりを語り始めるとポエム化するうえに物議を醸しそうなので控えておきます。そのようなものを書けるようにしておいたほうが文章力は向上するのでしょうね。
帰宅して、暗くはしたもののLEDの光のもとで日本語版を読みました。
帰宅途中は「せっかくの機会だったのだから、もっとアフロ民藝感のある本(?)を読めばよかったのでは…?」とも思っていましたが、
「陰翳礼讃」を日本語で読んで、「やっぱりもともと知っているからさらさら読める面があって、よく知らないテーマについて展示会の環境でいきなり英語で読んでもきちんと理解できなかっただろうな」などと考えました。
(余談:私が持っているものとは違いますが、こちらも表紙は障子ですね。印象的なパートなのかもしれません。)
そして今もスマートフォンの明かりと対峙しながらこの文章を打っています
私のこのくねくねとまとまりのない文章をハーパーさんが見たら、「日本らしい」と思うかもしれません