放送コードに乗せられない危ないフェチではないし、むしろそこにエロスはまったくないのに間違いなく『フェチ』であるという、僕の中にある何とも不思議な領域のお話。
こんにちは、タケウチタケシです。
サッカーボールが弾む音、意識して聴いたことがありますか?
グラウンドの砂の上をざりざりと転がり、誰かが蹴るたびに、ざり、と鳴って、ボールの中の固いゴムの芯がぽーん、と響く。足がボールに当たる瞬間の、ばん、という音とすべての音が、ドリブルをしているのか、すごくリズミカルに聞こえてきました。
僕の家の横には大きな公園があるのですが、音は公園から聴こえてきたようです。その日は大学が休みでベッドの上でまどろんでいたのですが、ただ誰かがサッカーボールを蹴っているだけの音を聞いた途端、僕は急激に心地よくなったのです。
思えば昔から、特定の『音』、ヒーリング音楽などではなくもとい生活音を聴くと、頭が『そわっ』となって、気持ちよくなる瞬間がありました。
気持ちよくなる、といっても性的な快感ではなく、あの、炎天下から冷房のよく効いた部屋に入った時のような、頭がじーんと痺れて気持ちよく軽く鳥肌が立つ感覚を大幅に増幅させたような感覚です。
その、サッカーボールの音、という、自分とはまるで縁のない音を『気持ちいい』と感じた僕は、頭がじーんと痺れたまま、とろりと溶けるように眠りに落ちたのでした。
気持ちよくなる音があるということが判明したわけですが、その『音』の共通点がまるで見付からないというのが悩みでした。
性的なフェチであればどんなマイナーな分野であっても市場は広大な広さを誇るため、そこら中に養分が落ちています。
ですが音フェチというのはあまりにも小規模な市場でした。需要もなければ供給もない。かといって、自分でサッカーボールを蹴ってみれば気持ちよくなるなるわけでもない。
不思議と、その音をいくら忠実に再現してみても、まるで、あの『そわっ』という鳥肌が立つような心地いい感覚はやってこないのでした。
しばらくは自分が『音フェチ』である、ということを忘れて暮らしていた、いや、音フェチであるということすら知らずに暮らしていたのですが、ある日、Youtubeでとある動画を見付けました。
それは、外人さんがぐにゃぐにゃと曲がる、洗濯機の排水パイプのようなものを、リズミカルにドラムのスティックやブラシで叩くというものでした。
その動画を見た途端、例の『そわっ』という感覚が大砲か土石流のようにどどどどどと襲いかかりました。そしてやはり僕は、全身に気持ちよく鳥肌を感じながら、とろけるように眠りについたのです。
それからというもの、その外人さんの動画を片っ端から見ていきました。彼に投稿された動画達は音フェチの人を対象に作られたものではありませんでしたが、楽器を演奏しているもの、歌っているもの、身の回りのものでリズムを刻んでいるもの……どれも創意工夫に満ち溢れていて、本当に素晴らしいと心から称賛を送りたいばかりです。
さて、繰り返すようですが、その動画達は音フェチの人達を対象に作られたものではありません。ですが、『そういう目的』で動画を見ている人達が好む動画が、関連の動画として紹介されます。
そして僕はついに、表立っていない市場、音フェチのシャングリラへの扉を開く鍵を手に入れました。
その名も『ASMR』ーー
Autonomous Sensory Meridian Response の略で、脳が絶頂を迎えるきっかけ、みたいな意味があるらしいです。
Youtubeで検索すると、大量に出てきます。こんなところに隠されていたのか、もしくは、ここ数年で爆発的に増えたのか。それは分かりません。
さて、一口に『音フェチ』といっても、本当に実に様々なものがあります。
咀嚼音、紙をいじる音、キャップを閉める音、ビー玉をいじる音、髪を切る音、シャンプーの音、紙を切る音、水を触る音、様々な小物を触る音……。
本当に数えきれないほどの『音』があります。
そんな中で、『音』のジャンルでも好きなものとそうでないものがあることが分かってきました。
たとえば紙をいじる音。これには多くのファンがいるそうですが、僕にはどうも騒がしく感じられます。
ですが、様々な小物を触る音なんかは『そわっ』となることが多くて大好きです。
ですが、今度は『音』の種類ではなく、動画の撮り方に文句が出てきます。
たとえば、外人のASMR動画に多いのですが、開幕『Hi guys』。要は喋る動画。
もうね、喋りとかいらないんです。あなたの声はいらないんです。こっちは『音』を聴きにきたんです、って毎回ため息が出ます。しかもそういう人に限っていい素材で『音』を出していたりして、悔やまれるばかりです。
それと、顔出し。
する必要あります? 美人とかおばさんとか、そういうことじゃないんです。顔を出されると、何だか世界観が固まってしまう気がするのです。画面に映るのは、『音』を出す素材と、『音』を出す手だけでいいです。
さらに言うと、手。
手は、できれば若い女性のものがいいです。男の手だったり、歳のいった女性のものだと、個人的には落ち着かないわけです。若い女性のものがいい。また、ネイルが原色なもの(たとえば攻撃的な赤色だったり)は好きじゃないし、それが画面上でせわしなく動くのは落ち着きません。
じゃあネイルはダメかと言えばそうでもないわけで。音を出すためにネイルはいいけど、できる限り自然な色でお願いしたいです。生爪が異常に長いパターンは見てて生爪が剥がれそうで怖くてだめです。
それに『音』を出す素材の見た目はシンプルなものがいいです。派手だとそっちに目がいってしまいます。また、画面をお洒落にする必要もありません。見づらいです。見やすさ、ありのままの姿をそのまま見せてくれるのがベストです。
あと、環境音というのか何なのか、ずっと背後で『サー……』という音が流れ続けているのも『音』の邪魔になるのでだめです。どんなにいい音を出してても、これは致命的な減点。
さて、これだけの要望を出しても細かいことを言えばまだたくさんあるわけですが、世界にはもっと先をいっている音フェチ達がいまして、動画のコメントで、その業の深さが見てとれます。
たとえば咀嚼音の動画のコメントには、『口を閉じて噛んでるバージョンも聴きたいです!』と書いてあったりします。
また『厚紙を触ってください』『指の腹でも触ってください』『小物の中でも○○の音が好きなので単品であげてください!』などなど、実に業の深いコメントで溢れていて笑えますが、自分も人様のこと笑えないぐらい業が深かったりします。
さて、ここまで語ってきましたが、上でも紹介したように様々な『音』の種類がある中で、僕はある一つの『音』のジャンルにたどり着きました。『音フェチ』という小さな世界の大きなくくりの中の、ほんの一部。
それが、ネイルタッピング。
場合によってはネイルタイピングなどと書かれていますが、恐らくネイルタッピングという表記が一般的だと思われます。
音フェチの世界におけるネイルタッピングは、机や小物などを爪や指の腹で触り、音を出すことです。
机に爪をとととん、と立てる。もう片方の手でも、とととん。とととん、とととん。ととと、とととん。ととと、ととと、とととととん。
爪の先で机の表面を軽く、しょあああああ、と引っ掻く。そしてまた、とととん、ととん。ととととん。
指の腹で、ぽぽ、ぽぽぽん。ぽぽ、ぽぽぽぽ。そしてまた、とととん、ととととん。
手が一度画面からフレームアウトして、戻ってきた手には小物が。
その小物を、爪の先でくぽくぽ、くぽぽかぽくぽかぽくぽか。ぽくぽかぱこぽかぽこぱか。指の腹でぽぽぽ、ぽぽぽぽ。
表面の模様を爪の先でなぞって、じ、ずーず、じ、ずずずずず。じ、ずず。ずずず。
いきなり早くせわしなくぽくぽかぽくぽこぽくぽかぽくぽこ。ぽくぽかぽくぽこぽくぽかぽくぽこ。表面を爪の先で引っ掻いて、しょああ、模様に引っ掛かってずず、じ、ずーず。しょああ、ずず、じ、ずーず。しょああ、じ、じずーず。
小物の裏を爪の先でくぽこぽくぽこぽ。表とはちょっと音が違う。音が深い。くぽこぽくぽこぽ。爪で引っ掻く音も、ちょっと深い。しょこお。しょこしょこおお。
あああこんな感じ。こんな感じなの! あぁ、伝わらねぇかなぁ! 伝わらねぇよなぁ!
でも、本当にこんな感じなんです。好きな動画投稿者さんの動画は、本当に、上に挙げた僕の条件をすべてクリアしている、というか、この人の動画のクォリティの高さが、そのまま僕の理想の高さになってしまって困っている状態? みたいな?
その動画投稿者さんは、『あぁ、この人も相当音フェチなんだろうなぁ』というのが分かる動きが多かったりします。『このタイミングでそこを……そうそう、そうそうそう!』となることが多々あります。
また、行動の一つ一つが丁寧で、かつ意味があって、かつ心地いい音を出すという徹底っぷり。本能的にこの音の連続ができているのならすごいし、しっかりと考え尽くされた上でこの音を出しているのならいよいよ本当に天才かもしれないと思うぐらい音フェチ的にはパーフェクトなわけです。
ある時から自分の中にあった『特定の音を聴くと気持ちよくなる現象。だけどその音の共通点が分からないし、自分でその音を再現しても気持ちよくならない』というモヤモヤしたものが、『音フェチ』という言葉の発見、そして『ASMR』というYoutubeでの検索ワードの発見、さらにネイルタッピングというジャンルの発見を経て、ようやく一つの形に整いました。ニッチなフェチを満たすための供給のライフラインがようやく動き始めました。『音』を『音フェチ』として楽しむスタートラインに立つことができました。
きっとこれからも、この『エロとは関係ないのに気持ちがいい』というタケウチタケシらしからぬ不思議な『フェチ』との付き合いは続いていくでしょう。そして、僕の中の『音フェチ』の嗜好は、様々な進化、変化を遂げていくことでしょう。
自分の中で新たに確立された『音フェチ』というジャンルがおもしろくて、久しぶりにブログに長文をしたためました。
では、ネイルタッピング動画を見ながら寝ます。みなさん、何かいい音フェチ動画があったら教えてください。