愚か者の賭け―序章―
2006年2月某日。
曇り空の下。いつものルートを運転して社に着いた。車のドアを開けた時に何故か
ひまわり を思い浮かべた他は何も変わらない通勤時間だった。
出社するとすぐに支店長から声が掛かった。「すぐに会議室に来てくれ。」辞表を提出してから、会議室で3度に渡って、一方的に思いとどまるよう説得をされてきた。
今日は、その最終確認をする日だった。
曲線を描きながら立ち昇るコーヒーの湯気を眺めながら、支店長の声を聞いていた。
気持ちが悪くなるほど褒められ、アホらしくなるほど会社を絶賛し、一人で喋り、その言葉に酔いながら身振り手振りまで飛び出してきた。
「考え直してくれただろう。」
声は自信に満ち溢れた低く穏やかで、顔は笑みを浮かべていた。
今、この人を見れば、さすが一部上場企業の支店長。そんな印象を与えるだろう。
でも俺には、耳障りな音を聴かされているくらいに感情を逆撫でする顔だった。
「辞めます。」それ以外に言う必要は無かった。
椅子から立ち上がる音。
ドアまでの数歩の足音。
ドアの開閉する音。
支店長は音だけを残して会議室を出て行った。何も言わずに、本心をそのまま貼り付けた顔で。
コーヒーの湯気は、曲線を描くことなく弱々しく揺れていた。
俺は、禁煙の会議室でマルボロライトに火を点けた。灰皿は支店長が置いていった愛用の白いマグカップを使った。椅子に深く腰掛け、ニコチンを味わいながら、コーヒーを飲み、ゆったりした時間を過ごした。
マグカップに吸殻を抛り投げた。マグカップに浮かぶ吸殻を見て、俺みたいだなと思った。
マグカップは会社、黒い液体は風通しが悪く、掴み所がなく、透明性のない社風。浮かぶ吸殻は俺。
浮かぶ吸殻は黒い液体が染み込みバラバラになり、沈むだろう。そして黒い液体の底で澱になる。
俺はまだ浮かんでいる。
俺は沈んでいない。
俺は澱にはなれない。
俺は澱にはなりたくない。
会議室のドアを左手で開けた。
右手にはマグカップから拾い上げた、黒くびしょ濡れの吸殻を握り締めていた。
この日で中途採用で入社した、多くの人が知る一部上場企業のサラリーマン生活にピリオドを打った。
次回予告![]()
・何故、一部上場企業を辞めたのか。
・何故、サラ金に借金をしたのか。
などを予定しています。
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