アルビダの海
第一節
「カードの次はオセロってよ……少しは懲りたらどうなんだ、甲ちゃん」
愚にも付かない世間話が飛び交う談話室で、最も益にならない台詞が耳に届いた瞬間、シュウは世界情勢を伝える手元のレポートから顔を上げずにいられなかった。
「いやあ調子が良くてねぇ」
「金を賭けるのは止めとけっていうのに」
今しがた談話室に足を踏み入れたばかりのマサキは、床で円陣を組む仲間に気付いたのだろう。座に交わるでもなく立ち尽くしたまま、毎度の仲間の狂態を呆れた表情で見下ろしている。
待機時間の暇潰しに行われていた遊戯がその様子を変えたのは、まさしく自分の所為だ。シュウはそれを認識してはいたが、だからといって、これ以上彼らの遊戯におけるパワーバランスを弄るつもりはなかった。
ささやかな娯楽でもあった実験の答えはとうに出でいる。そうである以上、これ以上の介入は蛇足でしかないだろう――結果が出れば興味は失なわれるものだ。シュウは再び手元のレポートに目を落とすも、彼らの声はその集中力を持続させてくれはしなかった。
「こないだ痛い目に合ったのをもう忘れちまったのか」
「だからじゃねぇかよ。少しでも取り返さないと土産が買えなくなっちまう」
「何しに宇宙くんだりまで来てるんだよ、この男は」
まさしくその通りだと思う。
同じ台詞をマサキがもし口にしていたら、シュウは不快を通り越して嫌悪を感じただろう。シュウにとってのマサキはこうして声を耳にしているだけでも苛立ちを募らせずにいられない存在だ。けれども、他の人間だと不思議と許容出来てしまうどころか、むしろ微笑ましくすら感じてしまえるのは――彼らがマサキと異なり、自分に直接関係のない人間だからなのだろう。
「戦いばっかに気を取られてたら心が荒んじまう。楽しみはあればあっただけやる気が出るもんだ。ご褒美だよ、ご褒美。そんなに目くじら立てるなって」
「その資金をギャンブルで失っておいて良く言うぜ」
嫌でも耳に突く声、姿。他の人間であったなら容易い無視が、マサキ相手だと容易でなくなる。いつの間にやら再び顔を上げていた己れにシュウは不快感を押し殺せない。
最初は当然の警戒だった。地底世界でのシュウの行いを知る少年が地上世界での行動を疑わない筈がない。嗅ぎ回られるのは覚悟の上であったし、その為に幾つかの証拠に繋がる品を処分したりもした。しかし人の口に戸は立てられぬ。活動の全ての痕跡を消すのは困難だ。
だからといってシュウは悲観的に物事を捉えてはいなかった。
シュウがどこかで行動を起こすからには、少なくとも二種類以上の理由が存在している。本来の目的に沿った理由とそれ以外の個人的な理由とでは、持ち得る動機が異なるものだろう。それは本音と建前と言い表すのが相応しい。けれども本来の目的の有無でそれらの理由の価値観が変動するかと問われればそれは異なる。どういった動機であれ、その理由は選択された時点でどれも等しく平等な価値を有するのだ。そこに本音と建前といった序列は存在しない。シュウにとって理由の総てはすべからく本音なのだ。
ひとつの行動で得られる実利は多ければ多いに越したことはない。合理主義と罵られようが、時間に限りのある人の身で人生に最大の益を求めるのであれば、効率の追求こそが肝要だろう。
点と点は繋ぎ合わさる線を持たない限り、それぞれ独立した存在として扱われる。一見、独立しているように映るシュウの行動の数々を線で繋ぎ合わせるのは、背後に複数の理由が存在しているからこそ一筋縄ではいかない作業な筈だ。だからこそ、その行動を不振がられている間は問題がない。問題があるとすれば確信を得られることだけだ。
シュウはその点誰よりも慎重に行動しただろう。
情報は戦いを制す。機体やパイロットの弱点は、命を賭けて戦う戦場に於いては真っ先に漏洩を防ぐべき情報だ。そこまでは誰にでも理解が及ぶだろう。だがそれ以上に大事な情報が、戦いを起こした理由、或いは目的であることは知られていない。
情報は洩れた瞬間から対策が練られるのが常だ。ただ一辺倒に障害を排除しようとばかりしていては、余計な消耗や損害までも背負わされることとなる。目的達成の為のリスクとコストは少ないに越したことはなく、だからこそ、譲歩や威嚇といった武器に頼らぬ懐柔策が策としてまかり通るのだ。
だからといって、シュウがそうした意味でマサキを恐れていたかと言われれば――それは全くの見当違いだと、シュウは相手をせせら笑っただろう。
マサキの操者としてのポテンシャルの高さは脅威であったかも知れない。けれどもそれは魔神という見えざる敵に対して、ラングランが武力での決着を選択した時点で予測の付く事態であった。練金学を用いた兵器の行き着く先をシュウは予見していた。寧ろシュウが恐れたのは、マサキよりも彼の扱う魔装機を支える頭脳――アカデミーの練金学士たちである。
マサキの理解が及ばぬ情報であっても、彼らの手にかかれば解析は易い。知識を持ち、それを活用することを生業としている人間にとっては、たった一語の専門用語さえも機密に等しい価値を持つ情報足り得るのだ。だからこそ、その一挙手一動に目を配らせるまでにシュウはマサキを警戒した。
断片的な情報であっても地底に渡されるのを防ぐ為に。
だというのに。
「大体、そのオセロはどこから持ち込んだんだ。こないだまではなかったじゃねぇか」
「倉庫を漁ってたら出て来たんだな、これが」
談話室の中央。本来なら人の通り道になるだろうスペースを陣取る甲児は、そもそも何が目的でそうした行動に出たのかが不明な答えを口にする。
その疑問は当然マサキも抱いたと見えて、「何の目的があって倉庫なんかを」
「そりゃ聞くだけ野暮ってもんだ」
それは豪快かつ快活な笑い声を上げながら、甲児は言い放った。
「甲ちゃんが好きそうなものなあ……何かあったっけかなあ……」
「その内わかることを今考えても仕方がねえよ。よし三連勝!」
投げ付けられるチップを嬉しそうに掻き集めた甲児は、まだ考え込んでいるマサキを見上げて、
「お前もやろうぜ、マサキ。一戦1000点」
瞬間、何かに思い至ったらしいマサキの視線がシュウを捉えた。多いに含むところのある剣呑な眼差しが何を言わんやとしているのか容易に知れるからこそ、シュウは目配せで関与を否定してみせる。
カードと比べてオセロは運の要素が少ない遊戯だ。二種類の駒に限られた升目の盤上とあっては、余程の粗忽者相手でもない限りイカサマも通用し難い。勝敗が戦略性に左右される遊戯は、今度こそ彼の実力を率直に反映した結果を導き出すだろう。
甲児とて仮にもエースパイロットの一人だ。無謀に見える直進的な攻撃を常としていても、戦局を見極める目は養われているに違いない。
三連勝がその証。シュウはそう思いもしたのだが、しかしマサキには却って絶望的な状況にしか映らなかったようだ。肩を落としてただただ深い溜め息を、いつ果てるともなく洩らしている。
シュウがマサキに聞かされた話だと、イカサマカードで調子に乗った甲児は、あろうことか、補修に立ち寄ったコロニーで場を囲む相手を仲間から地元の博徒に変えたのだという。偶々コロニーの目に付く場所に賭場場があったところから思い付いたらしかったが、所詮は素人の付け焼刃。イカサマが見抜かれるまでそう時間はかからない。
えげつない勝ちっぷりに仲間がついに根を上げてしまったからこそ起こった喜劇は、駆け付けたマサキたちを巻き込んでの乱闘騒ぎに発展し、離艦直前の戦艦に逃げ込むことでどうにか収まりが付いたらしいのだから――マサキの杞憂も尤もだ。恐らくマサキはこのまま甲児を放置しておけば、同じ騒動が起こりかねないと考えているのに違いない。
「いい加減懲りろって。それで調子に乗って失敗するんじゃねえか」
「七つの海を駆ける海賊が何で格好いいかって、金銀財宝を追い求めて冒険しているからだよな」
そうでなくとも声の大きい少年たちが、交互に鼻息荒く訴え出せばあにはからん。突飛な主張どころか噛み合わない会話に部屋のあちらこちらから忍び笑いが洩れる。
尤も相手にしているマサキからすれば堪ったものではないらしく、途方に暮れた顔付きで宙を仰ぐと、
「甲ちゃん、誰かから変な影響を受けてないか」
「何でだよ。命懸けのロマンが成立するのは金がかかってるからだろ」
「だったらマジンガーでやればいいじゃねえかよ、その冒険活劇とやらを。ゲームで金を手に入れるって、それじゃあ冒険はどこに行ったんだって話になるじゃねえか」
「何も考えずに暴れるのには慣れちまってるんだよ。大体、戦いなんて手足を動かしてりゃ終わるもんだ。お前だったらわかるだろ、マサキ」
「言ってることはご尤もなんだが、全然納得出来ねえのはどういうこった」
屁理屈の応酬は、それなりの常識を持ち併せているのがマサキの方なだけに分が悪い。言葉を続けるのも大儀そうに苦りきった表情で頭を掻く。返す言葉にも苦慮する突飛な持論を巻き散らす相手には、さしものマサキも言葉が続かなくなるらしい。
「ゲームっつう知的ジャンルに挑むのがロマンなんだよ。戦場が盤上に置き換わったと考えねぇ。金とゲーム、ロマン同士が組み合わさったら、その威力は倍増だぜ。どんなギャングもイチコロだ。何故ならロマンは男の生きる糧――人生だからな」
駄目押しとばかりに甲児が更に言葉を継ぐ。
「風呂の覗きにもロマンを感じる身で何を言ってやがる」
「それは青少年の永遠のロマンだろ。若い身空でロマンを失ったマサキこそ何を言ってやがる、だ。最近その覗きにも付き合ってくれなくなっちまったしよ」
「……甲児くん、それは何の話かしら?」
話をききつけていきり立ったさやかが甲児に詰め寄るのを契機とマサキはその場を立ち去り――何を思ったのか、そのまま迷う素振りも見せずにシュウが陣取るソファアに向かって来た。
「ロマンで金を巻き揚げられたんじゃたまったもんじゃねえ」
隣に腰を落ち着けるなり吐き出された台詞にシュウは改めて気付く。
いつしか己れが手元のレポートの存在も忘れ、彼らの遣り取りに見入っていた事実に。
「それは私に話しかけているのですか」
「他に誰がいるって?」
「珍しいこともあるものです」シュウはレポートを片手に立ち上がる。「けれども、場所を弁えられてはいかがです」
「なんだよ、お前……」
愚痴めいた口調で文句を吐こうとするマサキを遮って、シュウは言い捨てた。
「あなたと私は敵同士――忘れた訳ではないでしょう」
「カードの次はオセロってよ……少しは懲りたらどうなんだ、甲ちゃん」
愚にも付かない世間話が飛び交う談話室で、最も益にならない台詞が耳に届いた瞬間、シュウは世界情勢を伝える手元のレポートから顔を上げずにいられなかった。
「いやあ調子が良くてねぇ」
「金を賭けるのは止めとけっていうのに」
今しがた談話室に足を踏み入れたばかりのマサキは、床で円陣を組む仲間に気付いたのだろう。座に交わるでもなく立ち尽くしたまま、毎度の仲間の狂態を呆れた表情で見下ろしている。
待機時間の暇潰しに行われていた遊戯がその様子を変えたのは、まさしく自分の所為だ。シュウはそれを認識してはいたが、だからといって、これ以上彼らの遊戯におけるパワーバランスを弄るつもりはなかった。
ささやかな娯楽でもあった実験の答えはとうに出でいる。そうである以上、これ以上の介入は蛇足でしかないだろう――結果が出れば興味は失なわれるものだ。シュウは再び手元のレポートに目を落とすも、彼らの声はその集中力を持続させてくれはしなかった。
「こないだ痛い目に合ったのをもう忘れちまったのか」
「だからじゃねぇかよ。少しでも取り返さないと土産が買えなくなっちまう」
「何しに宇宙くんだりまで来てるんだよ、この男は」
まさしくその通りだと思う。
同じ台詞をマサキがもし口にしていたら、シュウは不快を通り越して嫌悪を感じただろう。シュウにとってのマサキはこうして声を耳にしているだけでも苛立ちを募らせずにいられない存在だ。けれども、他の人間だと不思議と許容出来てしまうどころか、むしろ微笑ましくすら感じてしまえるのは――彼らがマサキと異なり、自分に直接関係のない人間だからなのだろう。
「戦いばっかに気を取られてたら心が荒んじまう。楽しみはあればあっただけやる気が出るもんだ。ご褒美だよ、ご褒美。そんなに目くじら立てるなって」
「その資金をギャンブルで失っておいて良く言うぜ」
嫌でも耳に突く声、姿。他の人間であったなら容易い無視が、マサキ相手だと容易でなくなる。いつの間にやら再び顔を上げていた己れにシュウは不快感を押し殺せない。
最初は当然の警戒だった。地底世界でのシュウの行いを知る少年が地上世界での行動を疑わない筈がない。嗅ぎ回られるのは覚悟の上であったし、その為に幾つかの証拠に繋がる品を処分したりもした。しかし人の口に戸は立てられぬ。活動の全ての痕跡を消すのは困難だ。
だからといってシュウは悲観的に物事を捉えてはいなかった。
シュウがどこかで行動を起こすからには、少なくとも二種類以上の理由が存在している。本来の目的に沿った理由とそれ以外の個人的な理由とでは、持ち得る動機が異なるものだろう。それは本音と建前と言い表すのが相応しい。けれども本来の目的の有無でそれらの理由の価値観が変動するかと問われればそれは異なる。どういった動機であれ、その理由は選択された時点でどれも等しく平等な価値を有するのだ。そこに本音と建前といった序列は存在しない。シュウにとって理由の総てはすべからく本音なのだ。
ひとつの行動で得られる実利は多ければ多いに越したことはない。合理主義と罵られようが、時間に限りのある人の身で人生に最大の益を求めるのであれば、効率の追求こそが肝要だろう。
点と点は繋ぎ合わさる線を持たない限り、それぞれ独立した存在として扱われる。一見、独立しているように映るシュウの行動の数々を線で繋ぎ合わせるのは、背後に複数の理由が存在しているからこそ一筋縄ではいかない作業な筈だ。だからこそ、その行動を不振がられている間は問題がない。問題があるとすれば確信を得られることだけだ。
シュウはその点誰よりも慎重に行動しただろう。
情報は戦いを制す。機体やパイロットの弱点は、命を賭けて戦う戦場に於いては真っ先に漏洩を防ぐべき情報だ。そこまでは誰にでも理解が及ぶだろう。だがそれ以上に大事な情報が、戦いを起こした理由、或いは目的であることは知られていない。
情報は洩れた瞬間から対策が練られるのが常だ。ただ一辺倒に障害を排除しようとばかりしていては、余計な消耗や損害までも背負わされることとなる。目的達成の為のリスクとコストは少ないに越したことはなく、だからこそ、譲歩や威嚇といった武器に頼らぬ懐柔策が策としてまかり通るのだ。
だからといって、シュウがそうした意味でマサキを恐れていたかと言われれば――それは全くの見当違いだと、シュウは相手をせせら笑っただろう。
マサキの操者としてのポテンシャルの高さは脅威であったかも知れない。けれどもそれは魔神という見えざる敵に対して、ラングランが武力での決着を選択した時点で予測の付く事態であった。練金学を用いた兵器の行き着く先をシュウは予見していた。寧ろシュウが恐れたのは、マサキよりも彼の扱う魔装機を支える頭脳――アカデミーの練金学士たちである。
マサキの理解が及ばぬ情報であっても、彼らの手にかかれば解析は易い。知識を持ち、それを活用することを生業としている人間にとっては、たった一語の専門用語さえも機密に等しい価値を持つ情報足り得るのだ。だからこそ、その一挙手一動に目を配らせるまでにシュウはマサキを警戒した。
断片的な情報であっても地底に渡されるのを防ぐ為に。
だというのに。
「大体、そのオセロはどこから持ち込んだんだ。こないだまではなかったじゃねぇか」
「倉庫を漁ってたら出て来たんだな、これが」
談話室の中央。本来なら人の通り道になるだろうスペースを陣取る甲児は、そもそも何が目的でそうした行動に出たのかが不明な答えを口にする。
その疑問は当然マサキも抱いたと見えて、「何の目的があって倉庫なんかを」
「そりゃ聞くだけ野暮ってもんだ」
それは豪快かつ快活な笑い声を上げながら、甲児は言い放った。
「甲ちゃんが好きそうなものなあ……何かあったっけかなあ……」
「その内わかることを今考えても仕方がねえよ。よし三連勝!」
投げ付けられるチップを嬉しそうに掻き集めた甲児は、まだ考え込んでいるマサキを見上げて、
「お前もやろうぜ、マサキ。一戦1000点」
瞬間、何かに思い至ったらしいマサキの視線がシュウを捉えた。多いに含むところのある剣呑な眼差しが何を言わんやとしているのか容易に知れるからこそ、シュウは目配せで関与を否定してみせる。
カードと比べてオセロは運の要素が少ない遊戯だ。二種類の駒に限られた升目の盤上とあっては、余程の粗忽者相手でもない限りイカサマも通用し難い。勝敗が戦略性に左右される遊戯は、今度こそ彼の実力を率直に反映した結果を導き出すだろう。
甲児とて仮にもエースパイロットの一人だ。無謀に見える直進的な攻撃を常としていても、戦局を見極める目は養われているに違いない。
三連勝がその証。シュウはそう思いもしたのだが、しかしマサキには却って絶望的な状況にしか映らなかったようだ。肩を落としてただただ深い溜め息を、いつ果てるともなく洩らしている。
シュウがマサキに聞かされた話だと、イカサマカードで調子に乗った甲児は、あろうことか、補修に立ち寄ったコロニーで場を囲む相手を仲間から地元の博徒に変えたのだという。偶々コロニーの目に付く場所に賭場場があったところから思い付いたらしかったが、所詮は素人の付け焼刃。イカサマが見抜かれるまでそう時間はかからない。
えげつない勝ちっぷりに仲間がついに根を上げてしまったからこそ起こった喜劇は、駆け付けたマサキたちを巻き込んでの乱闘騒ぎに発展し、離艦直前の戦艦に逃げ込むことでどうにか収まりが付いたらしいのだから――マサキの杞憂も尤もだ。恐らくマサキはこのまま甲児を放置しておけば、同じ騒動が起こりかねないと考えているのに違いない。
「いい加減懲りろって。それで調子に乗って失敗するんじゃねえか」
「七つの海を駆ける海賊が何で格好いいかって、金銀財宝を追い求めて冒険しているからだよな」
そうでなくとも声の大きい少年たちが、交互に鼻息荒く訴え出せばあにはからん。突飛な主張どころか噛み合わない会話に部屋のあちらこちらから忍び笑いが洩れる。
尤も相手にしているマサキからすれば堪ったものではないらしく、途方に暮れた顔付きで宙を仰ぐと、
「甲ちゃん、誰かから変な影響を受けてないか」
「何でだよ。命懸けのロマンが成立するのは金がかかってるからだろ」
「だったらマジンガーでやればいいじゃねえかよ、その冒険活劇とやらを。ゲームで金を手に入れるって、それじゃあ冒険はどこに行ったんだって話になるじゃねえか」
「何も考えずに暴れるのには慣れちまってるんだよ。大体、戦いなんて手足を動かしてりゃ終わるもんだ。お前だったらわかるだろ、マサキ」
「言ってることはご尤もなんだが、全然納得出来ねえのはどういうこった」
屁理屈の応酬は、それなりの常識を持ち併せているのがマサキの方なだけに分が悪い。言葉を続けるのも大儀そうに苦りきった表情で頭を掻く。返す言葉にも苦慮する突飛な持論を巻き散らす相手には、さしものマサキも言葉が続かなくなるらしい。
「ゲームっつう知的ジャンルに挑むのがロマンなんだよ。戦場が盤上に置き換わったと考えねぇ。金とゲーム、ロマン同士が組み合わさったら、その威力は倍増だぜ。どんなギャングもイチコロだ。何故ならロマンは男の生きる糧――人生だからな」
駄目押しとばかりに甲児が更に言葉を継ぐ。
「風呂の覗きにもロマンを感じる身で何を言ってやがる」
「それは青少年の永遠のロマンだろ。若い身空でロマンを失ったマサキこそ何を言ってやがる、だ。最近その覗きにも付き合ってくれなくなっちまったしよ」
「……甲児くん、それは何の話かしら?」
話をききつけていきり立ったさやかが甲児に詰め寄るのを契機とマサキはその場を立ち去り――何を思ったのか、そのまま迷う素振りも見せずにシュウが陣取るソファアに向かって来た。
「ロマンで金を巻き揚げられたんじゃたまったもんじゃねえ」
隣に腰を落ち着けるなり吐き出された台詞にシュウは改めて気付く。
いつしか己れが手元のレポートの存在も忘れ、彼らの遣り取りに見入っていた事実に。
「それは私に話しかけているのですか」
「他に誰がいるって?」
「珍しいこともあるものです」シュウはレポートを片手に立ち上がる。「けれども、場所を弁えられてはいかがです」
「なんだよ、お前……」
愚痴めいた口調で文句を吐こうとするマサキを遮って、シュウは言い捨てた。
「あなたと私は敵同士――忘れた訳ではないでしょう」
