布施マーサボイストレーニングのオーディション審査員をやらせてもらった縁で、春頃から『大平塾』という説明しづらいものをやらせてもらっている。強いて言うと音楽コンサルティング、音楽セラピーというような内容で、まともな音楽スクールのようにコースやカリキュラムが設定されているものとは違って、ヒアリングからひとりひとりの個性を見極めて目標を設定し、必要なコーチングやアドバイスを組み合わせてその人の能力を最大限に引き出すというものだ。旧来のスクールは習う人が正しい高みを目指して下から上に登ってくるイメージなのに対して、習う人のとなりに寄り添って目標を共有して並走する感じ。スポーツ選手のコーチと似ているかも知れない。

 

これは僕が音楽の制作ディレクターという仕事を通して学んだことが原型になっている。ディレクターとはそもそもレコードや映像の制作プロセスで商品としての音源を作るために、テーマを決めてクリエーターやパフォーマーを選定し、締め切りと予算の範囲で制作を遂行する現場監督なのだが、実際には経験の浅い、というよりもほとんど素人の新人バンドとか若い作家を育てるという役割を結果的に伴った。

 

アーティストや作家は皆それぞれの高みを目指して努力しオーディションなどで選ばれてきた人たちで、才能はあるけれど、当然誰もがはじめは素人だ。それでも商品を作らなければならないのが制作の仕事で、それをじっくりと試行錯誤して成し遂げるのではなく数ヶ月とか数週間でケリをつけなければならないので正直なところ簡単ではなかった。

 

音楽は録音してしまえばパッケージにできるが、そもそも音そのものは目に見えないし触ることもできない。それを暗いとか明るいとか、濡れてるとか乾いてるとか、太いとか細いとか議論しながらひとつの結論にたどりつこうとする共同作業ははっきり言って面倒くさい。スポーツには勝敗というシンプルな基準があり、誰が見ても明らかな証拠に基づいて評価がくだる。でも種目によっては芸術点という評価基準が含まれるものもあり、これは素人にはわかりにくい曖昧さがある。音楽なんて芸術点100%だから超曖昧だ。「良くない音楽なんてこの世に存在しないよね」とむかし某アーティストから言われたことを思い出す。

 

でも、はっきりと売れる曲と売れない曲があった。これは面白かった。

 

売れた売れなかったにはそれぞれいろいろな理由があろう。良いものは売れる、良くないから売れない、なんて議論にもならない。でもディレクターを長年やっていると売れるか売れないかの分かれ目が、いつのまにかなんとなく見えるようになった。同時代に同じような環境でライバルだったと言われるモーツァルトとサリエリの曲が、時間を経てこれほど知名度に差が出るのはそこにはっきりとした違いがあるからだ。その違いとは何なのか。なぜサザンや小室哲哉の曲があの時代にあれほどヒットしたのか。

 

そういうことを僕なりの30年の蓄積で、多くのアーティストたちと一対一でやってきたやりかたで、そのままぶつけようというのが大平塾であります。メソッドではなく発見とか冒険に近い。ということで、今後は具体的な面談やレコーディングなどの内容をこのブログに公開していこうと思います。