静かな悲しみを
永遠にくり返していく
またひとつ
滴は落ちて
溢れたころに
私を絶望へと導いていく
静かな悲しみは
やがて
心地よい絶望感へと変わり
いつしか私は
憂い憐れむことを
欲するようになった
悲しみというのは
実に綺麗なもので
それに気付いてしまうと
楽なんていうものは
とても単純なものにしか
見えなくなるのだよ
その切なさに黄昏て
心地よい絶望感に浸り
永遠というものを
忘れることで
私は生きている
その薄いピンクの朝焼けは
まるであなたの心のようで
また私を悲しくさせるのだ
いつか分かる時が来る
大人たちはそう言った
もし
本当に
その時が訪れるなら
きっと私は
酷く嘆くだろう
私は
そんな未来を
一瞬も期待していないからだ
人は聞く
もし子供の頃に戻れるなら?
私は、
私はどこへも戻らない
私の生きた世界に
戻る場所なんて
どこにもないのだ
確実に
現状は良くなっている
環境は整ってきている
だがしかし
私は
私自身を
過去のどこかに
置き去りにしてきてしまったようだ
探しに行くにも
居場所が分からない
声は聞こえない
彼女は戻って来ない
深い霧に覆われて
苦しそうに泣いている
遠くから
そっと眺めるしか
私にはできないのだ
待っている
来るはずのない
あなたの声を探している
あなたが瞳を閉じる頃
私は
壊れたコンパスを握りしめ
またあの闇をさ迷い歩く
実は
ふくみけを飼う前に
まだ実家にいた頃、
中2の頃から飼っている猫がいた
名前は 「あか」
祖母が毛の色から付けた名だ
最初は
我が家に餌をもらいに来る
野良猫のうちの1匹だった
だが、ある日
家に帰ると祖母の部屋にその猫がいた
祖母曰く、
ここ最近全然餌を食べなくて
心配になって
動物病院に連れていったらしい
原因は分からずに
しばらく様子を見た方がいいと
医者に言われ、
家に入れたらしい
しかしその猫は
遠慮もなく
もりもりと餌を食べていた
私は思った
祖母は
この猫に
上手いことやられたんだな、と
私は猫が大好きなので
大賛成だったけどね
小4の時に
猫のミミコが死に、
中1の時に
犬のタロが死んだ
それ以来、
死ぬときの悲しみがつらいから
もう動物は飼わない
そう祖母も
言っていた
だから
予想外の展開に
私は驚きと同時に
嬉しくてたまらなかったのだ
野良生活が長いのか
猫トイレを買ったが
まったく覚えることなく
外で済ませているようだった
飼うといっても
家にいることもあれば
外に行ったまま
夜まで帰ってこないこともあった
もちろん
祖母に一番懐いていたが
以前に
どこかで飼われていたらしく
人見しりすることなく
家族のことも
まったく警戒せずに
すぐに我が家の
ムードメーカーになった
あかは
今までに見たことがないほどの
マイペースな猫で、
猫とはのんびりした生き物なのだが
それを遥かに超えていたと思う
よく生き物を捕まえてきた
朝起きると
悲鳴が聞こえ、
祖母の枕の横に
コウモリが死んでいたらしい
廊下では
スズメを追いかけて、
家の裏では
鳩の羽が異常なほど舞っていたり
寝ている私の元に
白いネズミを
くわえて持ってきたこともあった
寝ているときは
いつも舌を出していて
どこででも寝ていた
近所の野良猫と
喧嘩をして帰ってくると
目を怪我したり
耳の後ろを噛まれて
中の肉が見えていて
エリザベスカラーをつけて
家の中のみの生活を
一か月することになったこともある
ある時は
ネズミ用のとりもちにひっかかり
家族総出で
あかの手を拭いたり洗ったりした
正月には
鏡餅のミカンの上に乗せてあるにぼしを
毎回のように
ミカンを倒すことなく
きれいに取って食べていた
あくびをすると
尋常じゃないほどの
口臭が漂って
そのたびに笑った
近所に住む中国人が
野良猫を捕まえて食べるという事件があり
丸々と太ったあかが
狙われるんじゃないかと
少し心配だったが
そのことすら
笑い話になって、
あかはいつも
家族を明るくした
首輪には
帰ってきたらわかるように
鈴をつけていた
高校生になり、
テスト前になると
1階で徹夜で勉強していると
鈴の音が聞こえて
ドアを開けると、立っていて
部屋に入って
私が勉強する横で
いつも寝ていた
甘えてきたりはしない
だけど
あかは
いつもただじっと
私の側にいてくれた
いつの間にか
疲れ果てて寝てしまうと
私の太ももの間に入って
寝ていて、
私はそれが嬉しくて
いつもうつぶせで寝ていた
私はよく
あかを力いっぱい抱きしめて
大声で泣いた
涙が
あかの頭や顔に
どんなに流れても、
どんなに強く抱きしめても
決して抵抗せず
泣き終わるまで
ただじっとしてくれていた
それだけで
少し落ち着いた
学校から帰ると
大声で名前を呼ぶと
しばらくすると
どこからともなく鈴の音が聞こえ
家に帰ってきた
制服のままで寝ていると
いつも隣で
寝てくれていた
あの頃の私にとって
あか
だけが
唯一の癒しだった
あかが
大好きで
大好きで
仕方なかった
大学に進学し
実家を出て
あかと離れることが
1番辛かった
よく電話で
「あかに代わって」
なんて言って
電話口で呼び掛けると
向こうで鳴き声が聞こえて
そのたびに
会いたくなった
大学2年の5月に
祖母が亡くなる
2ヶ月ぐらい前に
あかは家に帰ってこなくなった
祖母も叔母も
家族も
みんな探したが
ついに帰って来なかった
いつものように喧嘩をしている最中に
近くの川に落ちたんじゃないか
どこかでまた新しい家に
住みついているんじゃないか
いろい考えたが
やはりその姿を見ないことには
実感できなかった
祖母はずっとあかを待っていて
餌もずっと置いていて、
いつものように
祖母の部屋の窓から入れるように
窓も開けたままにしていた
そして祖母は亡くなった
よく昔から、
猫は最期の姿を
誰にも見られないように死んでいく
そう言われているが
あかもそうだったのかな
そうも考えた
私は思う
きっとあかは
祖母が安心して逝けるように
先にあっちで待っていたのだと
そう信じている
あなたは優しかった
私にはわかる
気ままに過ごすのが好きな動物なのに
私は
しょっちゅう
あなたにくっついて
私が甘えていた
だけど
喉をぐるぐると鳴らして
喜んでくれているのが
どれほど
私の支えになったか
あなたの寝顔に
どれほど癒され
生かされたか
生きがい
まさに
あなたは
私の生きがいだった
今でも実家に帰ると
呼んでみる
「あかー」
って
またどこからか
鈴の音が聞こえて
あなたが帰ってくるんじゃないかと
そう、期待して
今でもあなたは
祖母の横で
大きなあくびをして
舌を出して幸せそうに
寝ているのだろう
あか、
あなたは私の
永遠の親友だ
今まで
いろんなものに囚われすぎて
縛られて生きてきた
本当の意味での自由は
この世には
用意されてはいないと
そう、
確信していた
でも今
少しずつ
ほんの少しずつ
動き出している
確実に
私は生きていて
息をしている
それはまだ
薄らとしか見えなくて
ささやかにしか聴こえない
元から
外では
すごく社交的で
行動的だったけど
何かが
ふっと
解き放たれた今、
目に映るすべてが
新鮮で
魅力的で
触れてみたいと思えるようになった
いろんなものと
出会いたい
可もなく不可もない
そんな毎日を
望んでいたあの頃
今
感じている
この毎日が
あの頃の夢を
見ているようで
まだまだ
実感が湧かないのである
未来に行って
どんな毎日を送っているのか
誰の隣で
何に向かって
生きているのか
すごく知りたいと思った
だけど今は
明日を信じれなかったあの頃の
このまま
夜は明けないんじゃないかと
泣いていた
あの頃の過去の自分に
会って言ってあげたい
あなたは未来で
確かに生きている
闇の向こうに
光は見えている 、と
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