特急電車で偶然隣り合わせになった上品な女性と話していると、
なんでだか戦時中の話になり、私は興味深く聞いた。80代にしては快活で可愛らしい笑顔で、
生々しい内容をあっけらかんと話す様子は好ましい。

「皆そうだったのよ。沢山死んで、それが当たり前で。
死にに行く息子や夫の最後の姿も、笑顔で見送ってた。でも家の中でひっそりと泣いてたんだろうね。

誰も文句なんか言えなかった。
私はまだ子供だったからよく分からなかったけど、数年経ってから、辛かったろうと思ったよ。

下町だったから空襲は酷くて、
父は大空襲から逃げられなかったんだけど、骨も見つけられなかったね。
黒焦げになった死体があちこちに積み上げられて、
なんだか怖いとも思えなかった。
同級生も何人か空襲で死んじゃった。
防空壕へ避難するときに煎った大豆なんか持っていって、私たちはお喋りしてたわ。
呑気なもんだね今思うと。」


ほとんど笑顔で話してくれた。
マサエさんは、私が今まで話した老人の中で一番若々しかった。
反応も素早いし、自分の話を押し付けようとしない。若い頃はきっと美人だったと思う。
きつくて派手なんじゃなく、いつも微笑んでいるような優しげな。


私は邪魔にならない相槌を打ちながら、話を聞いていた。
「父の骨」のあたりで意図せず涙が数滴こぼれて、
まさか初対面の人間の前で泣くなんて、
自分でも驚いた。


着る物が少しと、住む家と食べ物とがあって、
家族とか友人とか恋人とかが元気でいれば、
他の物はあんまり要らないかもしれないな。



特急電車で偶然隣り合わせになった上品な女性と話していると、
なんでだか戦時中の話になり、私は興味深く聞いた。80代にしては快活で可愛らしい笑顔で、
生々しい内容をあっけらかんと話す様子は好ましい。

「皆そうだったのよ。沢山死んで、それが当たり前で。
死にに行く息子や夫の最後の姿も、笑顔で見送ってた。でも家の中でひっそりと泣いてたんだろうね。

誰も文句なんか言えなかった。
私はまだ子供だったからよく分からなかったけど、数年経ってから、辛かったろうと思ったよ。

下町だったから空襲は酷くて、
父は大空襲から逃げられなかったんだけど、骨も見つけられなかったね。
黒焦げになった死体があちこちに積み上げられて、
なんだか怖いとも思えなかった。
同級生も何人か空襲で死んじゃった。
防空壕へ避難するときに煎った大豆なんか持っていって、私たちはお喋りしてたわ。
呑気なもんだね今思うと。」


ほとんど笑顔で話してくれた。
マサエさんは、私が今まで話した老人の中で一番若々しかった。
反応も素早いし、自分の話を押し付けようとしない。若い頃はきっと美人だったと思う。
きつくて派手なんじゃなく、いつも微笑んでいるような優しげな。


私は邪魔にならない相槌を打ちながら、話を聞いていた。
「父の骨」のあたりで意図せず涙が数滴こぼれて、
まさか初対面の人間の前で泣くなんて、
自分でも驚いた。


着る物が少しと、住む家と食べ物とがあって、
家族とか友人とか恋人とかが元気でいれば、
他の物はあんまり要らないかもしれないな。



我ながら愚かしいけど
電気を消して布団に横になっても
一人だからか目が冴えてくる

幼い頃からかなりの怖がりで
中学に入るまでは母親と一緒に寝てもらっていた

ホラー映画の予告をテレビで一瞬みただけで
一人で厠にも行けなくなった

旅行先のホテルや旅館では到底寝付ける訳がないが
旅先で疲れただろう親を起こすのは
幼心にも気が引けて
父の鼾を聞きながら
慣れない空間や枕にひとりでじっと耐えていた


そんな自分が独り暮らしなど
果たして可能かと危惧したが
元々県外へ出たがったのは自分の意思だから

独り暮らしは出来るかどうかではなくて
すべきことだった

まず
十八にもなって
ひとりで寝られない
というのは些か気色が悪い

そんなこんなで意外とやってこれたが
ここ半年ほど
寝るとき隣に人がいるのが当たり前の毎日になり

それに慣れたか
人がいないとなると
すこぶる落ち着かない

隣で寝る人は
友人と東京へ出かける前
今日は帰らないよ
と言った

昼間や夕方は平気だが
いざ夜に電気を消すと
ああやはし駄目だ

先に説明したような
無駄に怖がりな子供の心境を
またもや味わわされている
小さな家鳴りに心臓を跳ね上がらせ
カーテンの隙間を必死に視界から避け


こんなに眠れないなら
いっそ
眠らなければいい気もするが
そうすると寝不足
明日も早い

こういう時つくづく自分がいやになる