起業したならこうすべきだ、ああすべきだ、どうするつもりなの。様々な人の言葉を吸収するうちに、自分が自分でなくなっていくような思いにとらわれるという。そんなときは野原に行ってしばらく深呼吸をする。深呼吸をして前のめりになった自分を立て直すのだという。

高校三年生の秋、回りが受験で目の色が変わって来る頃に、息子は「何者でもない奴らのトークライブ」というイベントを企画した。第一回目には、同じ歳の高校の友達を連れてきて、これからの自分、人間関係、学校といったテーマで話をしてみる。等身大の自分は、まだ何も成し遂げていない、何者でもない人間であるということに気がついたのでそこからスタートするのだという。最初は学校の友達だけれども、いずれは大人や何かを成し遂げた人にも来てもらいたい。けれど、どんなに名のある人が来ようとも、何者でもない人間として語ってもらいたいと息子は言った。例えばどんなすごい人に来てほしいか?そんな妄想にみちた会話をするうちに、トランプ大統領と金正恩書記長の名前があがった。トランプさんと金正恩さんを呼んで何者でもないひとりの人間としての話を聞いてみたい。場所は野原がいい。聞きたいのは政治の話ではなく、例えば子供の頃の野原の思い出とか。
自分は高校生起業家と名乗ってみてわかったことがある。成功して生き残るために、およそ自分のものとは思えない考えや言葉が頭のなかで生まれて口から放たれていく。ときどき野原で深呼吸をして自分を確かめたくなる。肩の力を抜いて何者でもない一人の人間としての自分を確かめたくなる。ときおり深呼吸をして前のめりになった自分を立て直してみること。それは大変大事なことのように思える。この広い野原のある場所から、まずそのことを発信してみたい。

息子は、「金正恩さんトランプさん野原でお茶をしませんか」、というプロジェクトを発足させることにした。平城京跡の野原にブルーシートを敷いて、三人分の席の用意をして待つ姿をSNSで発信する。ネットで見てもらった人に広い野原で深呼吸をして大切なものへと思いを馳せる感覚を共有してもらえれば。