最初の撮影は、よく晴れた秋の日中に行った。三人分の丸い座布団を用意するのが間に合わずに、白い皿を三枚選んだ。草がボウボウに茂る野原を撮影機材とお茶のセットを担いで歩いていった。ブルーシートを敷くと草で浮き上がった。
スマホと一眼レフで、野原に席を用意して待つ息子の姿を撮影した。スマホで撮れば、その場ですぐにツィートできる。何日か間を置いてもう一度野原に行って撮影し、言葉を添えてネットで発信してみる。金正恩さんトランプさん野原でお茶をしませんか。大事な決断をする前に野原で深呼吸をしませんか。前のめりになった気持ちに一息いれること。なるほどと思ったらリツイートしてください。こんな風にひとつずつ深呼吸を繋げていきたい。反響はないものだなと息子は笑った。もしも息子のつぶやきを見た誰か一人でも繰り返し呟いて深呼吸をし、それを見た誰かが、深呼吸をしてつぶやくということが果てしなく繰り返されるなら奇跡は起こる。けれど奇跡はすぐには起こらなかった。
またこの野原に歩いてきて深呼吸をしようと、私たちは話をした。とにかくできることを繰り返し道をつけていこう。天気の良い日にまた野原の座布団セットを持って来ればよい。天気の良くない日にもきてみようか。
核ミサイルのボタンに手をかけた人が野原のことを思い出し果てしなく深い深呼吸をする。永久に時間の止まるような。そんな奇跡は起こるだろうか。わたしたちにできることは奇跡を念じて道をつけていくことだ。草むらを根気よく毎日歩き続ければ道はできていく。この見通しの良い野原は想像のかなたへとつけた道が見えやすい場所なのだ。先の世界大戦で人々が太平洋の島々につけた海の道を私たちは見ることができた。138億年前に私たちの心臓が立てた音が届く宇宙の道も見ることができた。次の世界対戦へと至る道を、この野原に迂回させ深呼吸をし時間を止めることを念じて、まずは息子と私が何度も草を踏み、私たちのつけた細い道をしっかりと記憶に刻みつけること。