さきほど帰宅。
最近仕事が忙しい。連日の深夜残業、休日出勤。
8月から9月にかけては、3週間以上無休で働いた。
このところ朝起きてもベッドから抜けることが出来ない。
起きてもしばらく吐き気と闘って涙目。やるべきことが多すぎて目標が
ぼやけているためだろうか。完全に異常をきたしている。
そんな中であるが、昨日は知人と飲んだ。
そいつは以前、精神を病んでウチの会社を辞めた男だった。
現在は都内の会社に勤めている。
その会社は私の勤めている業界ともつながりのあるところで、
去る6月に都内で開催された業界関連のフェアで偶然再会した。
その時の彼は、ウチの会社にいた時とは別人と見紛うほど活気に満ち溢れ、
堂々とした口調で話した。その目に、力があった。
今はやるべきことがあるという。目標があるのだとも。
そのとき、ああ、人間というのは達成するべき目標があると変わるものなのだな、
と思った。
その彼とはそれ以来会うことも無かったのだが、先週電話があり、
「来週、そっちに行くので飲みませんか」という。
同じ職場にいたときすらほとんど飲みにも行ったことの無い男である。
理由を聞いたが、「業界関連のお話なども聞きたいので」とのこと。
東京から1時間もかけてわざわざ飲みに来るとは釈然としなかったが、
折角誘ってくれたのでここは快く飲みに行くことにした。
待ち合わせた飲み屋の前に現れた彼は、6月に会った時の目の輝きが失われ、
全体的に疲労の色が滲み出ていたのだった。
彼の精神に、何らかのトラブルが発生していることは明らかだった。
とりあえず飲み屋に入り、一通り仕事の話などをしたあと、私は切り出した。
「つーかさ、大丈夫なの?」と。
彼がウチの会社を辞めた時は別の部署であったが、一時期は同じ部署で働いていた。
辞めた経緯も良く知っている。
すると、「いやぁ、最近ヤバいんですよ」という。
どうやら仕事がうまくいっていないらしい。しかも彼の勤める会社は、
親会社からのスピンアウトを余儀なくされ、その業界でのシェアも低下してきているという。
6月に会った時は、まだそういった問題が表面化していなかったらしい。
今の彼が抱えているのは、日々の仕事に追われ、直面する問題の本質さえも
突き詰める時間もなく、ただ漠然とした日々に対する不安と恐怖だった。
現在精神科に通っていて、聞いたことも無い名前の向精神薬と、
不眠症のため、ハルシオンを常用しているという。
「朝、電車を待ってるときが一番怖いですよ。飛び込みたくなっちゃって。」
鬱の人間に「頑張れ」というのは酷な話である。
私は「仕事なんてさ、テキトーにやりゃいいんだよ。お前に何かあったとしても、
周りの同僚や、会社なんて何もしてくれやしねぇんだからさ。」と言った。
彼は、人一倍仕事に対する責任感のある男だった。
そういう人間ほど、自分がいなければ、自分がやらなければ、と思い込む。
私はさらに「あのさ、お前がいなくたって誰かが代わりに仕事はやるの。
だからさ、逃げちゃえば良いんだよ。あいつは頼りになんねぇ、
と思われるようになったらシメたもんだよ。人生放棄するよか、仕事を放棄したほうが
全然いいよ」と付け加えた。
そうこう話している間、彼の表情は少し、明るさを取り戻していったように思えた。
反面、私の心はどんどんいたたまれなくなっていった。
彼に話したことはすべて、自分に対しても言えることだったからだ。
飲み屋の帰り、代行の運転手が運転する車の中、車窓を流れる闇を眺めながら、
「他所様に言えるほど、自分はうまく生きてないのにな」と心の中で呟いたのだった。