近くの自転車店へ、びあんち号を押して行った。店先には何かを卸していた業者の人しかおらず「ちょっと待っててね。若旦那、若旦那!」と中に呼びかけると僕より幾つか上の、薄毛に眼鏡と膨らんだ腹の愛嬌のある若旦那が出てきた。スポーク
は計5本がだめになっており、全てをなおしてもらうことになったが若旦那には無理なようで店主が出てきた。
商店街の中にあるそこは、パンクの修理や空気入れで客がひっきりなしに来る。「またパンクしちゃったよ」といって、還暦前後と思しき男性が持ってきた自転車には「魚や次男坊」と書かれたガムテープが張られていた。いかにも下町で客と世間話をしながら、職人然とした店主は流れるような手つきでびあんち号を生き返らせる。