山椒大夫しょうき髭を蓄え、恰幅の良い山椒大夫は荘園をつかさどり、たくさんの賤民を使って富を得ていた。またそれを国守に納める。荘園からの脱走を試みた非人は山椒大夫により焼きごてで烙印を押される。苦痛と消えぬ傷を伴い見せしめにもなった。下賤には5色あり、その単語は官有と民有で分けられたという。官すらも奴隷を抱え、それによって潤った。彼らがのし上がる術はないに等しい。仮に脱走が成功したところで国守は助けてくれない。

平安末期、平正氏は農民の貧困に見かねて時の将軍に盾ついた。それにより左遷され、幼い息子の厨子王は父の教えを胸に母の玉木、妹の安寿、乳母の姥竹と共に母の実家へと旅に出る。しかしその道中で騙され、人買いの手により玉木は佐渡へ、兄妹は山椒大夫に売られた。無銭で働かされるまで身を落とした彼らにただ歳月だけが過ぎ、その間に玉木は腱を切られ、厨子王の心は荒び、安寿は母への思いを強くしていった。

シーンの反復が悲哀を際立たせた。人身売買の前、湖畔での野宿に備えて夜露を防ぐため兄妹が枝や草を集める。二人協力して作業する様子は楽しげだったが、山椒大夫に買われた後にも同じような作業をさせられる二人がいた。そして湖畔では「ずしおー、あんじゅー」と母の呼ぶ声がして、それは母が偲ぶ歌となって離れ離れになった時もまた聞こえた。川や池は溝口健二の作品に欠かせないらしい。家族の生き別れ、安寿の入水は引きの画で撮り、はかない美しさが得も言われない。

森鴎外が原作のこれは現代でも山本直樹がインスパイアされて漫画化している。そこでは忠実に姉と弟の設定で厨子王が寿司夫となり、読み返してみたが、どこがどう繋がっているのか全く分からなかった。