Primal Screamの傑作アルバムといえば「Vanishing Point”を挙げる人が少なくないと思われ、ダブに傾倒したその作品は、このヴィゴ・モーテンセン主演作からインスパイアされたと、スポークスマンのボビー・ギレスピーが語っていた。それから本作をいつか見ようと思って早10年。今まで後回しになっていたがやっと機会が訪れた。と思ったらこちらは劇場未公開のリメイクで、さらに25年前のオリジナルにボビーは影響を受けたのかも知らん。道理で編集が妙に感じ、CMに入るかのような上手くない暗転に気を削がれる。
仕事で遠方まで出向いたコワルスキーがその帰路、身重の妻に電話しても彼女は出ない。友人に連絡すると持病が再発して入院したとのことだった。車を飛ばしたコワルスキーはスピード違反で捕まる。理不尽に取り締まる警官を振り切って妻の元へ急いだ。
特殊部隊出身の彼は運転技術に長けている。警察をまく度にことは大きくなり、FBIが出動するに至った。巧みに逃げられる警察とFBIの焦燥、包囲網が拡大して執拗に追われるコワルスキーの緊張、両側面から描かれる。リベラルなラジオDJがこれにスポットを当て、彼を危険分子扱いする警察を非難し、コワルスキーをよく知る友人も揃って擁護し、市民に応援団体までできた。3つの視点が物語を多角化する。
アイダホ、ユタ、コロラド、ニューメキシコなどコワルスキーの逃亡劇はいくつもの州をまたがり、ロードムービーの様相を呈す。ネイティブ・アメリカンや反社会派の元軍人など、行く先々で出会う人たちがDJ曰くところのラスト・アメリカン・ヒーローを助けたが、国家権力は容赦ない。最後の電話を切ったコワルスキーが覚悟したこと。スピードの先に見たもの。痛快カー・アクションに留まらない。