弓は武器にも楽器にもなり得る。張り詰めた糸を解き放てば矢は疾風の如く。矢に糸を絡めて水面に揺れる船上に合わせ穏やかな音を奏でる。キム・ギドクの作品に海は欠かせないが、弓もまた「受取人不明」でも登場し、波と凪、緊張と緩和の二面性が表裏となって揺れる。
沖合い、陸地は見渡す限りなく、老人と少女は船で暮らしている。老人がボートで陸から客を連れて来て、漁船で釣りをさせてそれを生業としていた。少女が17歳になるこの年、二人は結婚する。
老人にとって少女は全てだった。買出しに行きがてら婚礼道具も揃える。靴や衣装を引き出しにいれて鍵をしめ、年輪を重ねてしわだらけの指で、その鍵を小物入れにしまう。少女に向ける慈しみの眼差しと同じように、蓋をしめてから小物入れをポンポンとその武骨な指が優しく叩く所作に行く末を感じた。
少女も老人を完全に信頼していた。唯一絶対の存在だったが、釣りに訪れた若い男に恋心を抱いた。老人は嫉妬し、二人に不協和音が生じた。眠る際、老人は少女の手を握って安らぎを得る。それに対し少女は拒否反応を示すようになった。拒んでも拒んでも手を求める老人。彼女の気持ちを意に介さない彼から、愛していながらも人格を認めていないようにとれる。
広い世界を知らしめようと若い男は少女を船から降ろそうとした。一旦は下船を決めた彼女だったが「魚と寝る女」よろしく老人の強い思いを知り、翻意して老人を受け入れ、慈悲の目で彼を見た。漁船での結婚式にて、釣り客用に海を向いたソファは二人を囲むように内を向き、それに見守られながら契りを交わした。
ファンタジーの色が濃い。老人の少女に対する思いと少女の老人に対する思いは全くもって違うものだった。幻想的なラストに備えて二人の行動は、今までにない愛をかたどる。