フランス人のアンリはイギリスの水道局で働いていたが突然解雇された。異国の地で家族はいない。人付き合いが苦手で友人もいない。彼は自殺をはかった。
アキ・カウリスマキが母国を離れ、ジャン・ピエール・レオを主演に迎えて撮った作品。トリュフォーの「大人は判ってくれない」以来ということはそれから30年後のレオで、言われなければ気づくわけもなく、男前だが不器用なアンリをおそらく弟リスマキの注文通りに演じて、乾いたおかしみが冴え渡った。
セリフと間が真骨頂といえるだろうか。死にきれないアンリが自分を殺してもらうため殺し屋の巣窟であるバーに行き、そこにいた殺し屋との会話。どうでもいいが、アンリと友人の契りを交わした殺し屋2人がそれぞれ嶋田久作と手塚とおるに似ていた。飲めない彼が最後の晩餐とばかりに酒をあおり、その勢いで不器用に口説いたバラ売りのマーガレットとのやり取り。デリカシーがないことと誠実であることは似ている。
望んだ最期を間近に迎えてアンリはそこで初めて生きる喜びを知り、殺し屋を雇ったことを翻意した。しかし律儀なコントラクト・キラーが彼に忍びよる。このキラーの人物像もアンリやマーガレット同様に作り手の愛を感じる描写で、慈悲に溢れていた。死を否定せず、人間を肯定する。