三池 終わらない炭鉱の物語 廃墟に魅せられて、友人を引きずりこんで、機会があれば大規模のもの、できれば炭鉱跡に潜入してみたいものだと、彼と話したことがあった。しかし生半可に土足で踏み込んではいけなかった。表面だけを見てノスタルジーだとかデカダンスだとかのたまうのは浅はかだ。

福岡県大牟田市は炭鉱で一時代を築いた。本作の監督である熊谷博子はそこの建造物や風景に感銘を受けて、これに臨んだ。監督の主観でナレーターが喋るが、冒頭と結末だけ監督自身の声で語られる。どうしても本人の口から、たとえ語りがアマチュア然としていても、言いたかったのだろう。監督はその姿もカメラに映し出された。いつくしむように赤レンガに触れ、這いつくばって坑口を覗き、炭鉱をうかがう。

三池炭鉱に携わった人たちのインタビューが主で、エピソードを重ねていく度に当時の様子が浮き彫りになる。炭鉱の内部事情や大牟田の町が頭の中で徐々に構築された。親子3代で炭鉱と身近にあった女性の言葉が印象深い。作品内での時間軸で、最初は笑い話を展開する。中盤に差しかかる頃の労働争議における婦人会の話には、僕の隣に座っていた女性客は涙と鼻水を止めることができなかった。さらに炭じん爆発事故の件。負の遺産と言われるゆえんが明らかになる。

幕が垂れて灯りがついた時、後方の扉が開いて熊谷監督が現れた。壇上に立つことはなく、僕ら観客は半身振り返った体勢のまま彼女の謝辞を聞いた。