携帯電話の電波が害を及ぼし得ない程度の距離感が保てる混み具合の電車で、僕の目の前に立つ、シャツの裾を入れてボタンを上まで留めた男は、漫画雑誌を読んでいた。そこに描かれている女性は開脚前転の足が地に着く一歩手前の格好(俗にいうマングリガエシ、以下MG)をして、MGをさせている男性は吹き出しのセリフまでは読み取れないが何やら不敵な面構えでそれを眺め、要するに濡れ場で、そのシャツは臆することなくそれを見ている。しかも半笑いである。それが地顔なのか、それとも楽しんでいるのか、定かではないが僕には肝が据わっているように受け取れた。
シャツがくしゃみをした。雑誌で顔を覆いながら。MGに水滴がつく。MGをさせた男もまるで汗をかいたかのようだった。コラボレーションたるや。