バスの中 中央道が30キロの渋滞で予定到着時刻より2時間遅れるという。京王バスの案内アナウンスは「JRの電車を使うことをおすすめします」と言っていた。払い戻しも受け付けるとのことだったが、あずさ2号はバスに比べるとかなり割高で、金を惜しんだ僕はきびすを返すことなくバスに乗り込んだ。

本とポータブルCDプレイヤーを持参した。さらに売店にて、個人的ひいきである伊藤園の緑茶500ミリリットル、長旅のお伴にという冠と郷愁を想起させるヨーグレットを買って、長旅に備える。これで予定の3時間プラス2時間の計5時間持つだろうかと、高速バスは初めてで勝手と必需品が分からない。しかしだからこそ刺激的というもの。

出発してもしばらくは本を開かず、音楽も聞かず、気持ちがはやる。先のアナウンスのおかげかバスは空いていて皆、並んだ二つの席に一人ずつ座る中、僕の後ろは大学生ほどの眼鏡をかけた男子が二人、談笑が止まらない。野球の話が9割を占めるが、互いに持ち得る知識や情報をひけらかすばかりで、どうもかみ合っていない。しかも喋り方がどこか芝居がかっていて滑らかでなく、僕は耳障りに感じて読書と音楽鑑賞に興じた。

すると、がら空きの嗅覚が敏感になる。この、鼻を刺すような刺激臭はワキガと断定して間違いない。どっちの眼鏡にしろ彼に悪気はない。しかし突きとめたく、振り向いてイス越しに「倒していいかい」と聞くついでに発信源を探す。黒縁のほうだった。この時、あと4時間半耐えられるかどうかと、不安ばかり募っていた。