代々続いた問屋の長男だが、芸者にうつつを抜かして勘当された柳吉に森繁久彌、その芸者・蝶子に淡島千景、二人のによる関西弁の小気味良い掛け合いが全編に。若い頃の森繁を初めて見たが、爺の今よりも(まだ生きているのか知らん)見てくれは悪く、さらに甲斐性なしの役どころにもかかわらず、愛嬌があって魅力的だった。淡島もまた決して美人ではないが、健気に男を支える姿がはまる。

大阪は新地を大掛かりなセットを、引きの画で見せる。人の往来は激しく、活気があり、人情劇を際立たせた。何度も同じシーンを使うことで街並が把握でき、自分もそこの市井の人のように思えた。

蝶子と駆け落ちするが柳吉は実家に未練があり、いつかは戻りたいと思っている。蝶子は柳吉の実家に認めてもらいたいとの思いがある。遂げられることはなかったが、それでも二人は紆余曲折を経て一緒に暮らした。丁々発止はリズミカル。いつしか柳吉は蝶子のことを「おばはん」と呼ぶようになり、最初こそかんしゃくを起こしたが、それも受け入れるようになり、うだつの上がらない柳吉の「頼りにしてまっせ」との言葉も蝶子にとっては生きがいになっているようにも受け取れる。憎めない男は、頼りにしている女に暴力を振るわれても決して自らは手を出さない。二人の未来は明るかった。