やわかい生活 阪神淡路大震災で両親を亡くしたといい、地下鉄サリン事件では恋人を、ニューヨーク9.11事件では友人を失った35歳独身無職の橘優子。出会い系サイトで知り合った建築家kと合意の上で痴漢プレイをした。それがおこなわれた場末の映画館のある鎌田を気に入り、彼女はそこに引っ越す。銭湯の上階に住み、その閉店直前にタオルを付けたまま入浴することが日課になっていた。躁鬱が激しく、孤独な毎日だが、暮らしは満ち足りていた。優子はどこか達観して、セックスに対しても開放的である。

建築家kの他に、蒲田の駅前広場で再会した大学時代の友人・本間、ネットを通じて出会いタイヤ公園を案内したヤクザ・安田と交流を持ち、穏やかな生活が続いた。そんな中、故郷の九州から従兄弟の祥一が訪ねてきて居候を強いられたが、しばらくは躁状態が続く。程なくして鬱が顔を出し、殻に閉じこもる日々があった。それを乗り越えた時、はからずも男たちはそばにいなかった。御用達の銭湯、福の湯で優子はタオルを取る。

ゆっくりと、淡々と、橘優子の日々が映し出される。周囲に流されず、ささやかな幸福を噛みしめる人は、何かしらを乗り越えていることが多い気がする。僕もそうありたい。

蒲田の福の湯は実際にあるらしい。銭湯好きとして是非とも行かなくてはならない。傷のない人間は、湯船に浸かる時、タオルを入れないのは基本中の基本だ。