おそらく、初めて演技が下手だと思った役者は、小学生の頃に見た「たんぽぽ」での加藤賢崇である。こんな舌足らずでもいいのかと、今にして思えばそれが味であり、稀なキャラクターであり、現になおこうやって記憶に刻み込まれているのではあるが。もちろん当時は彼の名前も知らず、それからいくらか大人になって、何かのCMを見た時、ナレーションが彼だとすぐ分かった。ほんの端役だったにもかかわらず、特徴的な声はそれほどまでに残っていた。そんな加藤賢崇と「タンポポ」の監督・伊丹十三が出演し、同年に作られた本作は、黒沢清監督の初期作品。片鱗がうかがえた。洞口依子のデビュー作でもあるらしく、物憂いな唇がそそる。

先輩を慕って上京し、彼の通う大学に行った秋子は、そこでカルチャーショックに遭う。出会う学生は性に開放的で、その彼・吉岡もまた変わり果てていた。失意の中、吉岡が所属していたゼミの教授・平山と接し、彼が展開する"極限的恥ずかし変異"の実験をおこなうことになった。

ヌーベル・バーグを継承しようとしているかのような装いだった。哲学的なセリフも多く、しかし人間の性を笑うコメディタッチが退屈させない。デリカシーのない厚顔無恥な学生は、今も昔も少なくない。