ヤクザを誇りに、半次郎は親分の仇を討とうと飯岡に喧嘩を売った。そんなものは誇れるものではなく、母と妹を守れと兄貴分の忠太郎はそれを止めようとするが聞く耳を持たず、結局は劣勢の半次郎に加勢する。それを機に半次郎は故郷に帰って堅気になることを決めた。しかし飯岡一家はそれを許さなかった。

5歳で母と生き別れ、その後に父とも死別し、天涯孤独の身である忠太郎は旅を重ねる。顔は忘れたが、瞼を合わせて浮かぶぬくもりを抱いて。風の噂で母親が江戸にいると聞き、そこで子をなくした齢50前後の女性に声をかけて回った。盲目の三味線引き、物乞いに近い娼婦、彼女らと接し、母への思いを強くする。

木綿問屋として成功したおはまと、彼女が自分の母親ではないだろうかとそこに訪れた忠太郎が顔を合わせる場面は、おはまの側から撮った。ふすまが開いて忠太郎が現れ、そこから二人の会話の中で心境の変化を捉える際、悲しさが引き立つ。前述の二人の中年女性に尋ねた時も、おはまと出会った時も、そのやり取りは1カットで見せた。義理人情に厚く、きっぷも良く、演じる中村錦之助のセリフ回しがまた流れるようで、魅了される。