加藤泰特集上映のチラシにはローアングル、長回し、シンクロとある。なるほどその演出はうたい文句の通り芸術的だった。しかしそれでいてメロドラマ、アクションの要素も含んだ一大エンターテイメント、情にほだされる忍者・名張信蔵の活躍と恋物語を描く。
まずはコメディで掴む。伊賀忍者の末裔だが次男坊の信蔵は出世を諦め、起きるのは午後だった。飯屋の娘・お勢以、道場館主の娘・おちのの二人を同時に口説きつつ、どちらにしようか迷っている。そんな信蔵の状況は、彼の姉が生活ぶりをくさすことで分かった。放蕩の様子はあくまで三枚目の路線で、それが一変するのは、町で巻物を持った男が山伏に襲撃されてからだった。
巻物は砂金の出る秘境・安羅井の里への道標で、おちのはそこの姫君だった。道場主の退耕斉と師範の高力もまた安羅井の人間だったが、高力は姫と金を手に入れるため、砂金を狙う紀州の人間と画策する。上からの指令で安羅井を調査することになった信蔵は、しかし全てにおいて金が目当てであることを知り、翻弄されるおちのを助けることに決めた。おちのは高力の女になったと吹き込まれて失意の中、高力の手から彼女を奪還して里に返す。その道中で真意を問いただし、おちのはそれに答えなかったが、二人が一夜を共にするシーンで野に実る赤い木苺を挿入し、その意味をくむ。そしてその夜の余韻をクライマックスの伏線として、切なくも叙情が響く。