テレンス・マリックが全編、カメラを通してポカホンタスを愛撫しているかのようだった。彼女に触れる指は優しく、情が込められている。スクリーンの特性を生かしてワイドに映るアメリカの原風景が、愛の叙事詩を包んだ。自然を崇拝するネイティブ・アメリカンにいざなわれる。
ヨーロッパ諸国から見た新大陸は1492年に発見された。スペインやポルトガルから遅れをとって17世紀初頭、イギリスは北米に拠点を置いて開拓を始める。それを指揮するニューポート船長からジョン・スミスは原住民との交渉役を任され、彼は交易のためその地の王であるポウハタンの下へ出向いた。無駄のない編集・演出。一団を率いたジョン・スミスだったが、敵襲などによって彼一人になるまで、その説明的描写はない。
交渉は失敗して処刑の危機に瀕する。それを助けたのが王の娘ポカホンタスだった。美貌だけでなく英知を兼ね備えたポカホンタスに惹かれるジョン・スミス。彼女もまた彼に好意を抱いた。演じたクオリアンカ・キルヒャーは15歳とは思えない知性溢れる美くしさで、とわけ上唇、厚く膨らみ、鼻の穴の下辺りで連なるように突起している。それに唇を重ねることは、勇敢さとカリスマ性と開拓精神を持ち合わせた者だけに許される特権である。イギリス国王の命を受けてジョン・スミスはアメリカを離れる。替わるようにそこへ現れた貴族ジョン・ロルフは傷心のポカホンタスをいつくしんだ。彼女もまた彼を包み込む。
エキゾチックな衣装と化粧をまとって気高いネイティブ・アメリカンに対し、上陸して砦を築いたイギリス人たちは疫病と絶望で汚らしい。祖国から離れ、秩序すらままならず、伝染するのは病だけでなく狂気もまた。退廃は当然の結果だった。ペインティングが施された刈り上げサイドは、少しく真似をしてみたい。