ディープキスはなめくじのように両の唇を行き来する。カメラを下ろすと突起した二人の乳首が擦れ合って、そこも接吻をしているようだった。園子と光子の同性愛は、始まりこそ周囲を欺くためであったが、次第に溺れていく。
裕福に暮らす人妻の園子は趣味で美術学校に通い始め、そこで美しい令嬢・光子に出会う。光子は持ちかけられた婚約の話を破談にするため、園子をそそのかして奇妙な関係を結んだ。光子の妖艶な魅力にとりつかれ、園子は彼女を欲するようになる。光子もまた園子を慕った。夫の謙二をないがしろにしてまで光子を愛す園子だったが、彼女は破談になった婚約者・栄次郎とも関係を結んでいた。それを知って園子は嫉妬するが、光子は栄次郎に脅迫を受けているという。真偽の判別がつかず、サスペンスフルに展開する。
育ちの良い関西人の喋りがエロティシズムを一層に駆り立てた。そのイントネーションで「別の意味で恥ずかしい」とか「至近距離で会いたい」とか奇妙でユーモラスな言い回しが、谷崎潤一郎の原作小説の耽美世界ともつれる。
荒木経惟に見初められたという園子を演じた秋桜子は美人でもなければ、演技派でもない。しかし表情、特に目と眉の動きが出色である。女中に外出を止められてガンを飛ばし合う。光子にせがまれて戸惑いながら彼女の上につま先立ちをする。その時の顔といったら、他の女優ではなし得なかっただろう。光子を演じた不二子は瀬々敬久監督作「肌の隙間」での白痴美人が記憶に新しい。幼くも、熟れきっているようにも見え、本作でも濡れ場で妖しかった。
松尾スズキや宮藤官九郎の監督作は未見だが、井口昇は新作を追ってしまう。エロスと笑いは人間の原始的な快楽・欲求として、その演出はアラーキーに負けじ劣らずの鬼才ぶりではないだろうか。