仙川 その駅で入り用のために降りた。懐かしく、忌まわしく、しかし感情は思ったより高ぶらなかった。最後に訪れたのは2年前の初夏、解約をする時だった。

この屋上の下は3階建てで、1階は企業、といっても何を扱っているか皆目見当もつかない怪しげなもの、が入っている。2階と3階で2世帯の小さなアパートである。しかし二人で住むには充分すぎる広さだった。フロアごとの世帯ではなく、メゾネットタイプである。かなり古く、家賃は安い。玄関口は各階に付いているという不思議な造りで、それならば元はメゾネットではなくそれぞれの階で別世帯と思いそうなところだが、風呂とトイレは2階にしかない。詳しいのは門出・新居になるはずだったから。

ここから見える景色は大したものではないが、暖かい季節は友人を募ってバーベキューなど、機材を運んでDJイベントなど、そういったことを目論んでいた。結局は住むこともなく、敷金だけが戻ってきた。ドタキャンを食らって、ドタキャンをしたのだから、仕方ない。

この建物がある場所と、今日の用事の場所は線路を挟んで対角線上にあった。庶務を済ませててくてく駅を通り越し、雨の中わざわざそちらまで。そうやって浸りたい性分なのだ。