食べたいものがあって近くの中華料理店に行った。カウンターに座る。店員の男女が言い争っているのかどうなのか、おそらく中国語だと思うのだが、とにかく日本語ではないので内容は分からない。ただ、激しい口調だった。メニューを見ているふりをして少しの間、様子をうかがった。女性のほうは日本語も流暢に話す。男性のほうは調理場から怒鳴られていたが、顔色は全く変えない。僕の予想としては、彼は最近日本に来て、古くからの友人だった彼女を頼って働き口も紹介してもらった、という感じだと思う。彼は彼女にだけ横柄な態度をとる。彼女は彼にだけ素っ気ない。
「チャーハンとギョーザ」あらかじめ決まっていたものの、あたかもたった今決めたかのように僕が大きな声でそう言うと、隣の中年男性がこちらを見た。僕はチラッとだけその彼を見ただけだったが、彼はまだ僕を見ている。何なら絡んでも構わないシチュエーションにもかかわらず、僕がそうしなかったのは、その中年のかぶっている帽子があまりに不恰好で、雰囲気も危ない人のような気がしてならなかったからだ。視線を感じながら、おそらく中国人のおそらく友人の男女を目で追った。
「はいチャーハンとギョーザてす」中国人(推定)の男がそう言ったので、僕はおしぼりやコップをどけた。しかし、そのチャーハンとギョーザは変な帽子の男の前に置かれた。全く同じメニューを頼んだ僕に親近感が沸いて、なるほどそれで見ていたのか知らん。ばつが悪そうに食べる変な帽子を、今度は僕が凝視する番である。どう食すのか見てやった。次、僕は違った要領で食べるために。
「チャーハンとギョーザおまちどうさまてした」日本に来て1年以上(推定)が経った彼女が、僕の前に置く。チャーハンとギョーザを交互に口へ運ぶ変な帽子に対して、僕は左手のレンゲでチャーハンをすくい、右手の箸でギョーザをつまんでしょう油、酢、ラー油に浸してからレンゲの上に乗せ、口に入れた。結果的に、新たな食べ方を身につけることとなった。