歓びを歌にのせて 世界的な指揮者・ダニエルには余命が幾ばくもなかった。著名になる以前に改名をしていた彼は、そこが故郷だと周囲に気づかれずに、スウェーデン北部の寒村に引っ越す。多忙を極めた現役から一線を退いたが、教会の聖歌隊の声を聞いて指導に乗り出した。

聖歌隊のメンバー、3人の女性が魅力的だった。グラマーなレナは優しい。彼女の恋人は次々と替わる。数年前、村に来た医者と恋仲になったが、その彼には妻子がいた。村民がそれを知りながら黙っていたことを、レナは忘れない。目を潤ませて、ダニエルを想った。ガブリエラは類まれな歌唱力を持っている。しかし暴力を繰り返す夫コニーに怯え、自分を解放できない。不安を払拭してダニエルが作った曲をソロで歌った。その歌の美しさは鳥肌と涙を誘う。インゲは牧師・スティッグの良き妻だった。というのはあくまで表面上で、それは演じているだけだった。スティッグの聖職者であるがゆえの欺瞞と偽善に耐えかねた彼女は家を出る。

小さなコミュニティーには特有の閉鎖性がある。田舎にありがちなデメリット。異端は排除して、臭いものにはふたをして、新しいものには眉をひそめるという風潮を僕は、近親の出身地がまさしくそれであるために、知っている。生じた歪みを聖歌隊のメンバーそれぞれが抱えていたが、ダニエルが歌に息吹を与えて浄化させた。

ケイ・ポラック監督によるスウェーデン映画である。北欧というとイメージはデンマーク、ノルウェー、フィンランド辺りと一緒くたにしてしまっていた。セリフにあった、スウェーデン人とノルウェー人のやり取りのジョークで気質を知る。映画は国柄を学ぶこともできる。