キュウリの漬物を買う青年として、その青果店
では顔を覚えられている。歯切れの良いべらんめえ口調が下町育ちを感じさせる主人とその奥方が切り盛りしており、二人とも高齢ながら覇気は衰えを感じさせない。
まけてくれるのは奥方のほう。今日は主人しか店におらず、彼が4本200円のキュウリをビニール袋に入れていると、そこに夫人が中から出てきて「1本おまけしてあげて」と促した。さらに「そっちの古漬けね」と付け足した。彼女は僕の好みまで把握している。「色男は得だねえ」白い歯を見せながら主人は僕に5本のキュウリを渡す。「焼き芋も食べるかい」と言われて表を見ると釜があった。満腹だったのでまた次の機会にごちそうしてもらうことにする。