15世紀のフランスの英雄、ジャンヌ・ダルクが聖女に加えられたのは没後500年近く経った1912年で、本作はそれから間もない頃に製作された。タイムリーな作品である。
イギリスに捕まったジャンヌに自らが異端児であることを認めさせようと、裁判官は言葉巧みに彼女を責めて署名を迫る。四面楚歌の中、敬虔なクリスチャンであるジャンヌは神を信じて孤軍奮闘した。法廷サスペンスの極みが80年前にあった。
フィルムの状態は悪いが、クローズアップでジャンヌや裁判官の表情が細かに分かり、秒単位での心理を汲み取る。ジャーナリスト出身というカール・ドライヤーの片鱗か。学がなくとも高貴で美しいジャンヌとはとは対照的な、老獪な教会の人間たちの一様に醜い表情を映すパン。ジャンヌ・ダルクを演じたルイーズ・ルネ・ファルコネッティの大きな眼に溢れ、こぼれる涙が、鮮烈だった。あおり気味に撮って彼女の慟哭が、サイレントでも聞こえるようだった。
ここがユーロスペースとしてはこれで見納めとなるだろう。早めに整理券を受け取って、近くのドトールに行きタバコをふかし、同じように一人でコーヒーを飲んでいる客を見て、「あの人もユーロに行くのかな」と思いながら店を出て、劇場の扉の前で順番待ちをしている時にドトールで会ったその人を見つけ、「やはりな」とほくそ笑むことは、もうない。カップルや友人同士で来ている客は少なく、人は溢れているのに劇場の外でも会話が聞こえなかった。作品も無声映画で今日は終始静寂の中。