「戦艦ポチョムキン」から「アンタッチャブル」、乳母車に乗った女性は昇華してヒロインとなる。「メゾン・ド・ヒミコ」の監督・犬童一心、脚本・渡辺あやの初コンビ作で、その乳母車は衝撃が大きく、方々で高評判を聞いていたにもかかわらず、なかなか見れないでいた。そこへグッドタイミングでCATVが放映してくれた。そのタイミングはもちろん計算されつくされたものなのだが。
いかにも今時の大学生然とした恒夫が、足の不自由なジョゼと出会う。彼は同級生の香苗と良い雰囲気を作りながらもジョゼに惹かれる。努めてごく一般的な男子として描かれる恒夫の視点を揺らさない。そして努めて魅力的に描かれる障害者ジョゼのセリフは、いちいちエモーショナルだがそれは淡々と語られる。
ジョゼは虎を、動物園で恒夫と見た。「一番怖いものを好きな人と見たかった。感謝しいや」と言われて、こんなに感謝したくなることはない。彼女にとって恒夫との日々は新鮮だったが、この時点で覚悟はできていたのだろう。
ジョゼは魚のオブジェがあるラブホテルで達観した心情を吐露する。悲しい結末は起こるべくして起こること。いくつもの伏線があってそれは分かりきっていたことだが、やはり悲しい。願わくばラブホテルのシーンまで、その後を描くのは蛇足ではなかったとも感じた。ジョゼが車椅子で歩道を行き、その後姿を流されるとこらえきれなくなったということは、僕は蛇足といいながらも望んでいたのかも知らん。
原作の田辺聖子は、僕にとって「枕草子」の訳者として受験を思い出す。音楽のくるりは普段聞かない。好き嫌いではなく忌まわしき過去が甦る。辛い恋愛話には耳を傾けたくないこともあり、おそらく2度と見ることはない作品だろう。青臭さはいつまでも抜けない。