身寄りのない少年モンドが、とある町に流れ着いた。孤独な彼は行き交う人を眺め、ショーウィンドウを覗き、屋外で眠る。短いカットで町の群像を切り取った。
屈託のないモンドの笑顔が、町の人々に受け入れられていく。郵便配達人には「僕への手紙はない?」と会うたびに尋ねる。それはあるはずもなく、最初はただ「ないよ」と答えるだけ。次は鞄の中を調べて「今日はないな」。3回目には「今日はこれが来てる」と手紙を渡した。字が読めないモンドだが、自分宛に来た手紙に至福の喜びを感じた。船を持たない水夫は港で毎日釣りに興じている。砂利にアルファベットを刻んで、モンドに知識欲を促した。モンドの表情だけでなく町の顔も、序盤の暗さから中盤明るく変化した。
物乞いの老紳士や曲芸士とその家族、自らをユダヤの旅行者というベトナム生まれの未亡人など、モンドとの関わりでささやかな喜びを得る。モンドは分け与えてもらっても、ただ施しを受けるだけではなかった。しかし町に馴染んでも、それは長く続かない。公の人間が彼を疎む。
俗に言うジプシー、ロマ民族を題材とした作品を借りた。監督のトニー・ガトリフは自らのルーツであるロマにこだわって映画を作っている。野良犬に例えて、突きつけられる厳しい現実を説いた。しかし温もりも忘れない。