護衛艦いそかぜに乗り込んだ海上訓練指導隊はテロリスト集団だった。その工作員を指揮するヨンファは隊艦の副長・宮津と彼を慕う部下たちと組み、いそかぜを乗っ取る。宮津は、防衛大生の息子が書いた内部暴露の論文によって、彼が防衛庁情報局・ダイスにより死に追いやられたとして、ヨンファに加担した。彼らは日本に宣戦布告する。先任伍長の仙石と、海士として潜入したダイスの一員・如月の二人が暴挙を止めるべく、彼らに挑んだ。
ヨンファたちは某国工作員とされ、それが北朝鮮であることは明白ではあるが、どこの国かは劇中で明らかにされない。戦争や国に対する憂慮に各々が苦悩して、国と人の在り方を見つめる。ヨンファや如月は戦争に重きを置く。そういう環境の下で生きてきた。宮津や仙石は人間論を説く。一個人からの一国家、一国家からの一個人。海洋スペクタクルという大きな括りの中で、ミニマルなヒューマンドラマが点在した。
主要登場人物それぞれの回想シーンが割って入った。環境と経緯が示される。しかしそれは説明的でなく、あくまで匂わせる程度で全てを語ることはない。正義と主張は各々にあり、全否定され得る人間はいない。
「ローレライ」「戦国自衛隊1549」に本作と、今年に入って福井晴敏の小説が3本も劇場公開されている。そんな脂の乗りきった作家を昨年まで知らなかった。まして推理小説や冒険小説と無縁で、この3作の比較をしようとも思わなかったが、阪本順治が監督したこれだけは興味を持った。原作物、大作も監督するようになり、しかもコンスタントに作品を輩出して、最重要人物の一人と思われる。