八幡湯 太子堂5-21-4
のれんはかかっていないが、男性側に「男舞」、女性側に「湯女」と記されていた。そこを通ると浴場から灯りが強く入る。窓を多く設けて光を取り込んだ。開放的である。サウナが備えられているために水風呂も設置されている。普段ならのぼせるので長湯はしないのだが、あえて長く浸かり、ふらふらになりながら水風呂に入る。心臓に負担がかかるのが認識できた。それでもこれは快感である。見上げると窓から煙突と青空が見える。あまりに心地良くて眠くなってきた。他に座風呂とバイブラ、薬湯、電気風呂があった。水風呂と交互に入って長居する。
先刻まで番台に座っていた男が、下着姿でサウナに敷かれているタオルを取替えに来た。使用済みのタオルを抱えてボイラー室に入り、程なくして今度は全裸で浴場に現れた。客が減った頃合いをはかって彼も入浴する。彼の動きは全てが手際良い。そんきょの姿勢で体を洗う。濡れた手ぬぐいを絞り、そこから切られる水がビシッとまたキレが鋭い。無駄のない動きが粋である。
脱衣所に張り紙があった。「他店で盗難が多発しています。大金を持参しないでください。エサをやるようなもの。不審者がいたら声をかけてください。嫌がります」とある。どこか、おかしみがある。微笑ましく思いつつ、ロッカーの鍵を開けたままタバコに火をつけてテレビを見ていた。吸い終わってから荷物を片付けると、銭湯に入る前にタバコを2箱買っておいたはずだが、1箱しか見当たらない。出たか。財布はやられていなかった。その程度の被害なら何も言うまい。
テレビは大相撲を写していた。普天王関が3勝目をあげる。相手の攻めに耐え、誘いにも動じずに堂々とした内容だった。番台は女性に替わっており、常連らしい淑女と相撲談義に花を咲かせていた。横綱・朝青龍関の傲慢な態度に苦言を呈している。淑女は横綱の仕切りを真似たりして、それが愉快で僕も話に混ぜてもらった。「朝青龍を負かす力士は出てきませんかね」と問うと、渋い顔をして「しばらくあいつの天下でしょ」と答えて「湯女」をくぐった。