右奥上の銀歯が取れて、歯科を訪れる。歯医者は嫌いではない。毛嫌いされる独特の匂いと「キーン」という機械音も割と平気である。それよりも歯科助手が指を口の中に入れてきて、卑猥な気分になる。マスクと帽子で素顔が隠されミステリアス。彼女は、僕がその指を、あと数ミリの距離にあるこの舌で舐め回してやろうかと、そんな風に思いながら間抜けに口を開いていようとは、思っていないだろう。さらには、密着させた体を下から僕は、白衣をまとった胸のラインを臨んでいることに、果たして気づいているだろうか。あるいは、その下腹部に触れているこの腕を、彼女の腰に回して尻でも撫ぜながら、歯を削られるのも乙だなんて、妄想は尽きない。

今回の担当である若い医師は上手でなかった。付け直しても噛み合わせが悪い。違和感が生じる。何度も銀歯を削る。小さな声で「なんでだ」と呟いていた。気づくと汗が彼の額に滲んでいる。削って、噛み合わせを確かめて、首をかしげる。この一連の動作を何度繰り返しただろう。彼の玉の汗が肌に馴染み、ライトの照り返しで、二重の光となって僕はとにかくまぶしい。助手の彼女は言葉を全く発せず、ただ職務をこなす。彼女への妄想と彼の汗とで僕も忙しい。