カナリア オウム真理教もとい新興宗教関連の映画といえば、森達也監督によるドキュメンタリー「A」、是枝裕和監督が加害者の遺族を描いた「DISTANCE」がある。阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件があった衝撃的な1995年は、僕個人としてもターニングポイントとなった年である。あれから10年経った今、塩田明彦は事件を起こしたカルト教団信者のその後を、年端のいかない少年少女の目線で綴った。

無差別殺人事件を起こしたカルト教団ニルヴァーナ。団体の施設に収容されていた少年・光一が保護される。彼は教団の教えを守り親族にさえ心を開かなかった。祖父は彼の妹だけを引き取る。ここまでがナレーションで語られる。この前提を踏まえて、光一の母と妹探しのロードムービーが起点となる。

途中に回想のシーンが2度挟む。まず母に連れられて妹と3人で入信し、力ずくで教えを刷り込まれる場面。次に施設内とはいえ離れて暮らすため家族の絆が希薄になり葛藤しながらも、その家族を思うがゆえ徐々に順応する場面。旅の途中で出会ったDVに苛まれる少女・由希とともに苦難を乗り越えながら、教えが薄らいでいく。伊沢、吉岡といった信者たちとの再会で、それは決定的となった。唯一絶対神の崩壊に厳しい現実を突きつけられる。光一の身近な存在として教えを諭した伊沢は、大きな現実社会と小さな教団の社会との狭間で大いに揺れたに違いない。もがいた彼は光一を見守る。

紆余曲折を経て、祖父の下に辿り着いた光一と由希。祖父は身勝手な大人のアイコンだった。妹を取り戻して陽が明るく射す一本道を歩む3人だが「生きる」といっても道のりは険しい。