腹を下している。それはもう急降下で、もよおしたときは常に間に合うか瀬戸際だ。昨日の外食が当たったか。僕はお漏らしの類は幼い頃から数えるくらいしかなかった。しかし、成人になってから一度だけやらかしてしまったことがある。
当時、恋人と同棲をしていた。彼女がアルバイトで出かけ、僕は座椅子にかけて一人テレビを見ていた。冬でない限り家の中ではTシャツにトランクス1枚である。何気なく放屁をすると、尻に違和感がある。腰を持ち上げて椅子を見ると茶色く変色していた。僕は愕然とする。この年になって糞を漏らすとは。しかし悠長にしていられない。彼女が帰ってくる前に始末しなければならない。これ以上被害が及ばないよう、トランクスの裾をつまみ、がに股でユニットバスへ向かった。パンツごとシャワーを浴びる。石鹸でこすりビショビショのまま洗濯機へ。問題は丸洗いができない座椅子である。裸身でしばらく考える。とりあえず浴室へ持って行き、雑巾を濡らしてこするも色と匂いはとれない。裸身でしばらく途方に暮れる。その時バスマジックリンがふと目に入った。数回吹きかけてこすると、匂いがなくなった。ドライヤーをかけると色も落ちている。裸身でしばらく小躍りする。それからしばらくの間、その座椅子は彼女専用となった。
あれは春先、丸5年が経つ。久しぶりに思い出した。まさに今、屁に細心の注意を払っている。