エジプト生まれカナダ育ちのアルメニア系、アトム・エゴヤン監督作品はすごいらしいという話を聞いて、ちょうど特集上映をやっていたので朝イチで見に行く。話に勝る秀逸な作品を撮る監督だ。映画を製作するにあたって、監督は多かれ少なかれ自分が歩んできた道を作品に投影させていると思う。エゴヤンは幼少時には自分のアルメニアの血を受け入れなかったそう。想像し得ない葛藤があったのだろう。本作は自らのルーツを拒否し、後に回顧した彼自身がうかがえる傑作だった。

ストーリーは複雑な構成だった。トルコ政府が史実を未だに認めていないアルメニア人大量虐殺。それを体験しながら生き残った画家アシール・ゴーキーと、虐殺の目撃者であるアメリカ人宣教師クラレンス・アッシャーを綴った映画と、その制作に関わった人々のドラマが描かれている。劇中で撮影されている、そのもう1本の映画は、実際に起きた事件を被害者の子孫という立場から再現する。歴史を壮大に描くマクロな視点から、家族や友人など人々の機微を描くミクロな視点までを、シンクロさせながら見事に組み合わせていた。

マイノリティーが映画の持つ威力を存分に発揮している。そこから発信して訴えかけてくるものを、できる限り理解して受け止めたい。