
キアロスタミの映画は大体において現実と虚構の境目がうやむやである。フィクションとドキュメンタリーの線引きはできないと言われていて、映画に限らずいろいろな事柄でボーダーラインが引き難い昨今、彼の映画はまさにタイムリーだと感じた。とはいっても「そして人生はつづく」は1992年の作品なのだが。これはジグザグ3部作の第2作で、1作目「友だちのうちはどこ?」の撮影現場が大地震に見舞われ、映画を見た親子がその被災地を訪れるという設定。出演者の会話が用意された台詞ではないように受け取れる。それだけに受け手へのメッセージ性が強い。でもキアロスタミ自身は「誰かにメッセージを伝えたいなら映画よりも手紙を書くことだ」だって。そりゃそうだ。家々は地震で瓦礫の山と化している。屋根がなくなり壁には日々が入っている家の窓から、それでも美しい緑の自然が広がっていて、荒れすさんだ風景から窓の向こうの緑の山へ焦点を絞る。ラストシーンでジグザグ道を登る人と車を退いて捉えるカメラは、映画が最大の娯楽である僕にとって至福の時を与えてくれた。豊かな自然の中でゆっくりとうごめく人もしくは車。それがゆっくりとフレームから出ていくまでをただ見つめる。
すばらしい誕生日だ。